忍者ブログ
ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
[1]  [2
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

 外に一歩出て、ミレイは眩しそうに目をすぼめながら空を見上げた。
 良い天気だ。空が青い。ちょっと風が強い気もするが。
 ――と、そこで、くるくると回るプロペラ飛行機の出来損ないの様なもの……風力発電機があちこちに立っている事に気付いた。
「風力発電やねー」
「ヒノ?」
「あれクルクルしとんの見ると和めへん?」
 和む和まないはともかく、ここでは普段から風がある程度あるようだ。だからこその風力発電機だろう。
 さて、と呟いて、ミレイは地図をじいいぃっと見る。まずは方角を把握するか、道を探さないといけない。
「今、お昼で……太陽こっちで……って事は……」
「あっ、ミレイ!」
「ル~!!」
 足にぷにょん、と何かが当たってきたような気がして見下ろすと、ぴょこぴょこ飛び跳ねるマリルの姿。そこから視線を前に戻すと、ここ数日で見慣れた少年がいる。
「マリル。ヒビキ君……って、どしたん? ズボンに砂ついてんで?」
「えっ、ホント!? 掃ったつもりだったのに」
 ミレイに指摘されて、ヒビキは慌てたようにパタパタと服をはたいた。
「さっきそこで、怪しい男の子に突き飛ばされちゃって、尻もちついちゃったんだ」
「……怪しい男の子?」
「まだいると思うよ。ミレイも見てみる?」
「な~んかヤな予感がビンビンにするから、遠くからチラッと見れるんなら」
(まっさかね……)
 しかし、ミレイは研究所の横手を言われるままに覗いて、自分の嫌な予感がばっちり当たった事を知ったのだった。
(やっぱアンタかいっ!)
 男の子にしては長い、赤い髪。黒っぽい上着。研究所の窓に貼り付かんばかりの少年。
 ゲームの言い方を使って良いなら、ライバル君である。名前はまだ知らない。
(つまりはヒビキ君が主人公なわけね)
 改めて見てみれば、ヒビキは帽子の被り方といい、赤い上着に黒いハーフパンツの居出立ちといい、確かにそれっぽい見かけである。
(……連れ歩いてんのマリルやけど)
 どこぞのアニメでは最初のポケモンがピカチュウだった主人公もいる事だし、まあ、ありなのではないかとミレイは思った。
「ヒビキ君……」
 ミレイはポンポンとヒビキの肩を叩く。
「……まあ頑張れ」
「何を!?」
 しかし、ミレイは生温かい目をして首を横に振るだけである。
 この時彼女はすっかり忘れていた。ポケモンのタマゴを受け取りに行くという主人公フラグは、自分の方に立っていたのだという事を。
「わたしはもう行くわ。おつかいの途中なんよ」
 いや、正確には、矛盾した勘違いをしているようだ。どうやらタマゴの話とライバルの話は、ミレイの頭の中では別々に処理されているらしい。
「あ、そうだよ! 外に出てきてるからビックリしたんだ。調子はもう良いの?」
「うん。ヒビキ君が早う見付けてくれたおかげやね」
 ヒビキの耳が少し赤くなったような気がするが、ミレイはそれには気付かなかった。
「元気になったのなら、僕んちでご飯食べて行きなよ。もうお昼だし」
「え? ちょっとそれは申し訳ないような……」
「良いから良いから!」
 去り際にチラッと振り返って見ると、赤い髪の少年はまだ窓から中を見ていた。

PR
「あ、ミレイさん。ちょっとこっち来て下さい」
 アカツキを足元に連れて、ミレイが奥の部屋を出ると、隣の部屋でパソコンと睨めっこをしていた助手が、ディスプレイから目を離した。
「はい、これ傷薬です。くれぐれも無茶はしてはいけませんよ」
 近寄ってきたミレイに、助手はスプレーの頭みたいな物とカートリッジを渡す。使う時はカートリッジに頭を取り付け、補充する時はカートリッジを取り替えるのだと、物珍しそうに受け取った傷薬を観察する相手に説明した。
 研究所はミレイの知る大学の研究室などとは違い、実に開放的な造りをしていて、まず扉がすごく少ないのである。奥の部屋での会話は、ミレイが説明するまでもなく助手の元まで筒抜けだった訳だ。
「ポケモンが傷付いたなら、ヨシノまで行けばポケモンセンターで回復してもらえますし、ここでも向こうの部屋に回復装置を置いてありますけど、間の道には回復する場所がありませんから……。それにポケモンは完全に回復できるかもしれませんけど、ミレイさんはそうはいかないんですからね」
 数日前に突然降ってわいた相手をここまで心配してくれる助手に、ミレイは胸の奥がジーンとした。
 お礼を言い、研究所の玄関に向かいながら、ミレイはアカツキに呟いた。
「ホンマに、好い人達やね。『平和』やわ」
 アカツキは首を傾げた。何が『平和』なんだろう?
 その様子を見て、ミレイはちょっと笑った。
「多分、分からんと思う。でも、ここはわたしにとって、とっても『平和』なとこなんよ。『夢』みたいな場所や」
(もしかしたら、ホンマに『夢』なんかもしれんしな)
 そこだけは、忘れないようにしないといけない。いつか、自分はここに来た時同様、全く唐突に元の世界へと消えてしまうかもしれないのだ。
 何気ない自分の一言から己の存在の不安定さを認識し、ミレイは一瞬真剣な眼差しでアカツキを見た。
(その時までにわたしができる事……)
 ミレイは意識してアカツキに笑いかけた。
「行こか、アカツキ。外の世界は、きっと広いで?」

(……マジに謎技術……)
 トレーナーカードを作った時と全く同じ事を思いながら、ミレイは半分引きつった笑顔で帽子と鞄を受け取った。
 パソコンの横に湧いた光から物体が出てくる現象には、まだ慣れられそうにない。
「ついでだからお小遣いもあげるよ」
 ウツギ博士がパソコンを操作すると、ミレイのトレーナーカードから「ピロリン♪」と音が鳴った。慌ててジャンパースカートのポケットから出して見てみると、所持金の欄が3000円に増えている。
(ま、まさか……)
 ミレイは考えた。
(究極の電子マネー!?)
 すなわち、現金のない世界。
「あ……ありがとう、ございます」
「いやいや、せっかく出掛けるのならね。後は……念の為に、ポケギアを渡した方が良いかな。連絡をつけられるように」
 博士はパソコンの前から立ち上がり、何やら機械の入った箱を持ってきた。
「……!」
「これとこれ以外……って、ミレイちゃん?」
 箱の中を見て顔色を変えたミレイに、ウツギ博士は首を傾げる。
「これ……」
「ヒビキ君が、近くで拾ってきたんだ。ミレイちゃんのかい?」
 ミレイは頷く。彼女が箱の中に見付けたのは、幾つかの見慣れない機械に埋もれる自身の携帯とノートパソコンだった。
「他に何もなかったみたいでしたか」
「うーん、何も聞いてないね。取り敢えず、君のなら返すよ」
「……はい」
 箱に手を伸ばしかけ、ミレイは一度ギュッと目を瞑って目眩をやり過ごそうとする。
(――大丈夫、大丈夫、倒れない)
 呪文のように心の中で繰り返し、意を決して思わぬ現実世界の機械を鞄にしまった。
「もう一個取って取って」
「え? ……もう一個? ですか?」
「そうだよ。元々、連絡をつけられるようにポケギアを渡そうとしてたんじゃないか。使い方はね……」
 ウツギ博士は自らもポケギアを一つ取り出し、電話機能の使い方を説明した。
「分かったかい?」
「はい、多分……」
「ま、使ってみれば分かるよ。最後に、ポケモンじいさんの家の場所だね。ヨシノタウンの北で、ここからヨシノタウンまでは西に一本道だから……って、何か情けない顔してないかい?」
 ウツギ博士の指摘通り、ミレイの表情は情けないものだった。彼女はよく知っている。自らの空間認知能力の低さを。
「できたら簡単な地図を描いて下さい……」
「大丈夫だよ。その辺の人に聞けば教えてくれるって」
 勿論、ウツギ博士に言われなくてもミレイはそのつもりである。今まで何人の駅員さんやコンビニの店員さんや交番のお巡りさんやインフォメーションセンターのお姉さんにお世話になってきた事か。しかし、彼等に道を尋ねようにも、地図があるのとないのとでは大違いなのである。
 よっぽど情けない顔だったのだろう。ウツギ博士は結局、メモに簡単な地図を描いてくれた。と言っても、単にLの字に毛の生えたような代物だったが。
 ポケギアも鞄にしまうと、ミレイは地図を一旦小脇に抱え、帽子を被った。
「じゃあ、行ってきます」
 ウツギ博士はにっこり笑って頷いた。
「うん、頼んだよ」

「この子にします」
 ボールを見て、ウツギ博士は少し意外に思ったようだった。
「ヒノアラシにするのかい?」
「はい」
 真剣な表情で右手に握ったヒノアラシのボールを見つめると、ミレイはウツギ博士に視線を移した。
「そういえば、ポケモンってどうやってボールから出てくるんですか?」
 あまりに真面目な顔と質問の内容の基本的さのギャップに、ウツギ博士は最初、自分が聞き間違いをしたのかと思った。
「……へ?」
「ボタンがあったりするんですか?投げ……たら、回収するのが大変な気がしますし……」
「……」
 ウツギ博士、完全に絶句。
(さっき戻ってって言うだけで戻ってたさけん、呼べば出てくんのかな……)
 ミレイは再びボールに目を落とし、ゆっくりと回転させて観察する。そしてものは試しとばかりに、話し掛けた。
「出て来れる?」
 ――パカッ。ポンッ。
 ボールが開き、ヒノアラシが出てきた。
「ヒノ~」
「そっかぁ。呼べば出て来れんのね。ねえねえ、名前付けて良い?」
 ミレイはしゃがみ込んでヒノアラシに聞いてみる。ヒノアラシはちょこ、と首を傾げ、一拍ほど間を置いてから小さく頷いた。
(その仕草凶悪に可愛いって~!!)
 心の中で絶叫しつつ、ミレイはそっとヒノアラシに手を伸ばし、背中を撫でて、言った。
「じゃあ、アカツキ。アカツキ、ね」
「ヒノ!」
 ――ピリリリリッ!
 いきなり電子音がなって、ミレイとアカツキはビクッとする。
「あ、メールだ」
 ちょっと放置されていた感じのウツギ博士が、いそいそと部屋の入口近くのパソコンに向かう。
「ふむふむ……なるほど……」
 何だか真剣な顔が気になって、ミレイは立ち上がると自分も入口に行った。後ろをアカツキがついてくる。
「何かあったんですか?」
「ポケモンじいさんがね、また珍しいものを見つけたって言ってるみたいだね。あ、ミレイちゃんはポケモンじいさんを知らないか。珍しいものが大好きで、よく大発見だ! って騒ぐんだ。今回はポケモンのタマゴを見つけたって……今更タマゴをねぇ」
(……あ、タマゴそのものはもう珍しないんや。昔ならタマゴそんもんが大発見やった筈やねんけどなー。時代を感じんなー)
 ミレイの頭の中では、ウツギ博士はタマゴの存在にものすごくびっくりするイメージがあった。言わずもがな、いわゆる旧金銀のストーリーである。
「でも、ポケモンじいさんがこれだけ騒ぐくらいだから、何かあるんだろうね。困ったな。僕がタマゴの研究もしてるのはポケモンじいさんも知ってるから、タマゴを取りに来て欲しいらしいんだけど……僕も助手も、今はちょっと忙しくて手が放せないんだよ」
(うーん……)
 ミレイは一瞬ためらい、けれど一応聞いてみる事にした。
「わたしが受け取ってきましょうか……? 地図を貸してもらえれば、行って帰ってくるくらいできると思いますけど」
 ウツギ博士は目をぱちくりとさせた。みるみる笑顔になっていく。
「そうだよ、君がいるじゃないか! ちょうどポケモンも持ってるし、町の外に出ても大丈夫。頼めるかい?」

 次にウツギ博士が向かったのは、部屋の中央にある大きな機械だった。ミレイや博士の足元に纏わりつくようについて来ていた三匹のポケモン達が、明らかに落ち着きを失ってソワソワしている。
 もしかして、と流石に悟ったミレイの考えを裏切る事なく、ウツギ博士は足元を見下ろすと……
「さて、ミレイちゃんにはこの三匹の中から……うわっ!」
「みゃっ!?」
 ……博士の言葉を最後まで待つ事なく、チコリータとワニノコがミレイに突撃した。ヒノアラシは驚いたのか、固まっているようだ。
 連れて行って、連れて行ってとばかりにピョコピョコ跳ねるチコリータ、足にギュウギュウしがみつくワニノコ。二匹が猛烈な勢いでアタックする中、ヒノアラシもハッと我に返った。
「……ヒノ」
 ちょこちょことミレイの側まで寄ってくる……が、チコリータとワニノコに睨まれ、ヒノアラシは再び固まった。
(……あれ、今日は逃げへんのや)
 ミレイはちょっと意外に思った。ヒノアラシは最初の出会いからして他の二匹から逃げていた状態だったし、他の時だってすぐ部屋の隅やウツギ博士の足元に走っていくものだから、てっきり今回もウツギ博士の所に戻るかと思っていたのだが。
「えぇと……博士。どうしましょう?」
「うん、それじゃ動けないよね……。ほら、皆ボールに戻って!」
 ウツギ博士は機械にセットしてあったボールを三匹に向けた。三匹は光ったかと思うと姿を消してしまう。そしてボールがガタガタッと揺れた。
 ミレイは息を呑んだ。
(ホンマにボールに入ったー!!)
 そしてこの世界では、見える光もあるらしい事も分かった。ミレイの目は確かに、光となったポケモン達がボールに入っていくのを捉えていた。
「この三匹の中から一匹あげる。ポケモンを選んだら、トレーナーカードをそこにセットして、ボールに触ると良い」
 ミレイは頷くと、機械に一歩近付いた。認証台にカードを置き、深呼吸する。
 一瞬目を閉じ、すぐに開けて、彼女はボールに手を伸ばした。

 ウツギ博士は説明した。今でこそモンスターボールで持ち運びされているポケモンだが、昔の人達はポケモンを連れて歩いていたらしいのだと。人間がポケモンを連れ歩く事で、何か繋がりや絆のようなものができるのかもしれない。人がポケモンを連れ歩いた時、ポケモンの精神にどのような影響が出るのかを研究しているのだと。
(……はれ?)
 ミレイは首を傾げた。
「あの……博士。ヒビキ君はマリルを連れて歩いてますよね?」
 ヒビキ、というのは、ミレイを見付けた少年の名だ。彼はちょくちょくミレイのお見舞いに来るが、彼の横にはいつもマリルの姿があった。というかそもそも最初にミレイを見付けて飛び付いたのはマリルの方らしい。
「うん、ヒビキ君にも手伝ってもらってるんだ。ミレイちゃんも、やってみる気はない?」
「やりたいですっ! ……けど、わたし……ポケモンは……」
 連れて歩きたくても、連れて歩けるポケモンがいない。ポケモンの実在しない世界からトリップしてきたミレイには。
 ミレイの言葉は尻すぼみになっていき、目線も段々落ちていく。しかし、ウツギ博士はサラリととんでもない事を言った。
「ん? ああ、ポケモンは一匹、研究所のをあげるよ。ついでにこの機会に、トレーナー登録もしたらどうかな。15歳なら、そろそろそういう年だしね。早い子なら10歳にもならないうちに登録に来るよ」
(だからわたしは15ちゃうんですけどー!)
 心の中で突っ込みつつも、今ここで再び実年齢を主張しても話がややこしくなるだけだと判断したミレイは、その突っ込みを口に出す前に飲み込む。
 幸い、気持ちを切り替えるには十分すぎるネタが、他にもあった。言うまでもない。ポケモンを貰えるという夢のような話の方だ。だからミレイは、素直に勢い良く頭を下げた。
「ありがとうございますっ!!」
「うん、じゃあこっちにおいで」
 もうスキップに近い足取りで、ミレイはウツギ博士について研究所の奥の部屋に入る。奥の部屋の更に奥にはパソコンがあって、博士はそれを起動させた。
「はい、ここに名前を打ち込んで。登録できたら、カードが出てくる筈だから」
「名前だけで良いんですか?」
「うん、最近は技術も進歩したからね。認証に必要なあれこれは、それで取れるらしいよ。僕はそっちに関しては専門外だから、どういう仕組みなのかは分からないけれど」
 何認証!? と聞きたかったのに先回りされ、ミレイはちょっと肩を落としつつもパソコンに名前を打ち込む。Enterキーに乗せた指先が、緊張で突っ張った感じがした。
(……えいっ!)
 ――ピロリロリン♪
『ミレイさんの登録が完了しました。トレーナーカードをお受け取り下さい』
 ペカーッとパソコンの横が光り、カードがその中から現れた。
(マジに謎技術ー!!!)
 どうしてだろう、このカードに触るのが何となく怖いのだが(爆)
「ちゃんと登録できたみたいだね」
 ウツギ博士の方は何ともあっさりカードを持ち上げ、裏表を確認すると、それをミレイに渡してきた。流石に受け取らない訳にもいかず、ミレイはおっかなびっくり自分のトレーナーカードを受け取る。
(あ、裏にサインを書く場所があるんや)
「名前書いとけば良いんですかね?」
「いや、そっちのはどっちでも良いらしいよ。好みの問題だってさ。だって、ちゃんと表に印刷されてるだろ?」
「……どんな好みの問題なんですか」
 思わず突っ込みを自重できなくなったミレイに、ウツギ博士はあははと困ったように笑うしかなかった。彼だって、そんな事は知らないのだ。

「ミレイちゃん、お早う。よく眠れたかい?」
 眼鏡を掛けた白衣姿の、細身でのっぽな青年が挨拶してきた。
 ミレイは、ぺこりと頭を下げる。
「お早うございます、ウツギ博士」
 あ~、非現実やな~、と、しみじみする数回目の瞬間である。
 この話を読みに来るような方なら既にピンと来ていると思うが、ウツギ博士はジョウト地方ワカバタウンに研究所を持つポケモンの研究者だ。普通ならまかり間違っても関西地方に住む一大学生が声を掛けられる存在ではない……それはもう、ありとあらゆる意味で。
 有り得ないと言えば……。
「そっちもお早う。今日も元気そうやね」
 ミレイは屈み込むと、博士の後ろについて来ていたこの世界最大の特徴にして一番の非現実に声を掛ける。
「チコ、チィコ!」
「ワニワニ~♪」
(うわ~っ! やっぱ可愛すぐる!!)
 チコリータとワニノコが元気良く挨拶を返し、ミレイは今日も朝から一気にテンションが上がった。ヒノアラシがささっとウツギ博士の足にしがみついたが、それもまた良し。微笑ましくて萌えるというものである。
 全く見知らぬ土地、どころかどうやら異世界に、いわゆるトリップを果たしてしまったらしいとミレイが認識し、それでも数日でショックからある程度回復したのは、明らかにこのポケモン達に負う所が大きかった。
 そもそもはチコリータとワニノコのバトルから逃げてきたらしいヒノアラシが間違えてミレイの寝かせられていた部屋に飛び込んできたのが、ミレイが生のポケモンを見た最初の瞬間で、あの時の衝撃ときたら、よく再び発作を起こさなかったものだとミレイは自分に密かに感心したほどである。尤も、単に発作を上回る勢いで萌えただけなのかもしれないが。そう考えると萌えとは恐ろしいものである。
「ミレイちゃんも今日は大分調子が良いみたいだね」
 ふにゃ~とした笑みを浮かべるミレイにドン引きしないウツギ博士は、やはり大物だ。というのは横に置いておくとしても。にこにこと笑ったまま、彼はミレイにとって爆弾発言としかとらえようのない言葉を続けた。
「研究のお手伝いを頼んでも、大丈夫かな」
 ミレイはふやけた笑顔を戻す暇もなく、ピシリと固まった。
(……はへ? 今、何やのたまいました?)
 勿論、何かのたまってます。研究の手伝いって……研究って……一体何のイベントフラグ!?
 この時点ではポケモンハートゴールド、ソウルシルバーのストーリーをこれっぽっちも把握してなかったミレイには、ウツギ博士の台詞は全く心当たりのないものだったのである。

カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
お役立ちリンク
Grungenote

転寝Lamp

Web Liberty
Twitter Bot

→説明ページはこちら
最新コメント
[06/03 木菟 伶]
[06/03 蒼埜]
プロフィール
HN:
木菟 伶
性別:
非公開
自己紹介:
夢見がちな学生。
バーコード
ブログ内検索
忍者ブログ [PR]