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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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「あにゃ~……降って来てもうたねぇ?」
ミレイの鼻先に、ぽつりと落ちた冷たい水。
トキワシティに来ていたミレイは、雲の立ち込める空を見上げ、そう傍らのミロカロスのルージュに話しかけた。
そうする間にも、雨粒は後から後から落ちてくる。
急いで手近な大きな木の下の下に逃げ込むと、それを見計らったように、雨は本格的に降り出した。
「ん~……どないしよ」
ミレイは困ったように呟いた。
別に、いつもならば雨に濡れることなどそれほど気にしない。
しかし、
「せっかくリィちゃん驚かそ思て、こんな服着てきてんもんなぁ」
そう、その日ミレイが着ていたのは、おろしたての新しい服だった。
スカートに花のモチーフをあしらった、ふわっとした水色のワンピース。
髪を結ぶゴムは、スカートに合わせて、水色の花の飾りがついている。
ルージュは「お似合いですよ」と言うように、自分の青い尾ヒレを嬉しそうにゆらゆらさせた。
「まぁ、リィちゃんがこんなんで驚くかどうかは、わからんけど」
ミレイは照れたようにうつむいた。


一方、こちらはトキワシティジム。

「降ってきたな……」
ジムの中まで響いてくる雨音に、グリーンは独り言を言った。
「もうすぐ、ジムを閉める時間ですねー、グリーンさん」
門下生であるエリートトレーナーであるテンが、グリーンに声をかける。
「今日も挑戦者は現れませんね」
同じく門下生のサヨが、少しつまらなさそうに言った。
「ああ……仕方ないさ。カントー最強と謳われるジムだ。そうそう強い挑戦者は来ないだろう」
グリーンが言うと、テンがふいに、からかうような笑顔で訊いてくる。
「グリーンさん、遠い目をしちゃって。誰かのこと思い出してませんかー?」
「だ、誰かって誰だよ」
「いえ、別に……」
グリーンが語気を荒げて訊くと、テンはあっさりと引き下がる。サヨが必死で笑いをこらえているらしいのが気にかかるが、グリーンは気を取り直して前を見た。
とにかく、時間まではジムリーダーとしての勤めを果たさなければならないだろう。
グリーンは少し、ぼんやりしていた。
と、今度はサヨがそんな彼に話しかける。
「グリーンさん。もしかしてこの後の休み、なにかあるんですかー?」
「な、なにかって何だよ」
何となく、よくない予感を胸にグリーンが訊き返すと、にこにこしているサヨの隣で、テンがによによしながら言った。
「例えば……気になるあのことデート! とか!」
「なっ! ……そんなんじゃない! お前たち、最近無礼だぞ」
グリーンが頬を紅くして叱り付けると、テンとサヨはさっと姿勢を正して頭を下げる。
「すみませんでした、グリーンさん……」
「……わかればいい」
グリーンは熱い頬を見せまいと、彼らに背を向けながら言った。
その背中に向かい、サヨがぽつりと言う。
「でも、この雨、急に降り出しましたよね……トレーナーって基本的に雨具持って出歩かないから、急な天候の変化って困るんですよねー」
「……」
自らもトレーナーとして旅していたことのあるグリーンは、その言葉にはっとした様子だった。
くるりと振り向くと、壁にある電話を使って、ジムの入り口の方にいるトレーナーへ声を送る。
「おい、挑戦者らしき者は見当たらないか?」
「え? はい。いませんが……」
「そうか。ならいいな」
グリーンは呟くと、今度はジム全体に声の行き渡るスピーカーのスイッチを入れて、告げた。
「皆、今日の仕事ご苦労だった。時間的にはちょっと早いが、今日の勤務はこれまでとする」
おお、と歓声が上がる中、グリーンはさっさと身支度をして、ジムの出入り口へと向かった。
手には、大きな雨傘。
「お疲れ様でしたー」
頭を下げてくる、テンとサヨに口の端で笑って見せ、グリーンは急ぎ足で出て行った。
「……やれやれ」
テンとサヨは顔を見合わせて笑うと、自分達も帰り支度を始めたのだった。


あれは、先週のことだっただろうか。
「リィちゃん、リィちゃん」
グリーンがぶらりとグレン島に寄ると、そこに当然のようにミレイがいて。
夕焼けで辺りが紅く染まる中、にこにこしながら駆け寄ってくるミレイに、グリーンは少々ぶっきらぼうに返事する。
「なんだよ、ミレイ」
「毎週、日曜の夕方からは、ジム休みなんやろ?」
「ああ、まぁな」
「じゃ、来週の日曜……お休みになってからでええから、二人でどっか行かへん?」
少し遠慮がちに誘ってきたミレイに、グリーンは目を円くした。
「おまえと?」
「うん。……あ、なんか他に予定あった?」
心配そうに尋ねてくるミレイに、グリーンは勢いよく首を横に振った。
「いいや、そんなことは……丁度、退屈してたところだ。いいぜ、二人でどこか行こう」
二人で。
グリーンはその言葉を胸の中で反芻し、頬を赤らめた。
この赤らみが、ミレイにばれていないことを信じたい。
ミレイはグリーンの返事に、ほっとしたようにそして嬉しそうに、笑った。
「よかった。楽しみにしてる!」


(まさか、その当日に雨が降ってしまうとは、思ってなかったけどな……)
一週間前のミレイの笑顔を思い出し、グリーンは目の前の雨を睨みつけた。
雨はグリーンの視線など何処吹く風で、実に景気よくばつばつと傘を叩く。
(早く迎えに行ってやらないと……)
グリーンが足を速めながらジムの角を曲がった、そのとき。
目に飛び込んできた光景に、グリーンは思わず足を止めた。

グリーンの目に映ったのは……木の下に佇む、鮮やかな水色を纏った少女。
傍らには、ミロカロスが静かに寄り添っている。
雨の降りしきる薄暗い中、まるで彼女とミロカロスだけが浮かび上がるかのように、明るく見えた。
「……あ、リィちゃん!」
少女に名前を呼ばれて、グリーンははっとする。
「ミレイ……」
自分に微笑みかけてくる水色の服の少女は、紛うことないミレイその人だ。
傍らのミロカロスは、何度か見かけたことのある彼女のポケモンだ。
グリーンは急いで彼女の側へ寄って行った。
「もう、ジムのお仕事終わったんやね!」
「ああ……、ミレイ、どうしてこんなところに?」
グリーンが不思議に思うのも無理は無い。ミレイとはポケモンセンターで落ち合う約束だったのだから。
ミレイははにかむように微笑んだ。
「今日はこれからリィちゃんと一緒や、思たら……なんか待ちきれなくなってん」
それで、ジムの外で待ってようと思うたんよ。
ミレイの言葉を、グリーンは目を円くして聞いていた。
自分は今、どんな表情をしているのだろう。あまりの嬉しさに、変に緩んだ顔になっていないか心配だった。
「そ、そうか。……寒くなかったか、ミレイ?」
見れば、雨宿りしていたとはいえ、葉の隙間から零れ落ちたと見える雫が、ミレイの肩や髪をところどころ濡らしている。
グリーンの問いに、ミレイは笑って首を振る。
「平気やよ、こんくらい」
「しかし……、とにかく、傘に入れ」
グリーンはミレイが入りやすいよう、傘をずらした。
ミレイは少しためらう様子を見せたが、意を決したように、ちょこんと傘の下に入る。
グリーンには、だいぶ遠慮した位置に。
「……ミレイ、もっとくっつけ。でないと濡れるだろ」
グリーンは笑いながら言った。
ミレイは焦ったようにグリーンの顔と自分の立ち位置を、交互に見る。
「にゃ、でも……」
「いいから。ほら」
グリーンはミレイの肩を抱き寄せた。
彼女は「みゃあ!」と小動物の鳴き声のような悲鳴を上げたが、結局は大人しく、グリーンの肩にぴったりとくっつく。
互いの体が、とても温かい。
二人はしばらく、黙って立っていた。
ふいに、グリーンが口を開く。
「今日、おまえを初めて見たとき、……」
ミレイはぴくっと反応して、彼の横顔を見つめた。
グリーンは微笑を浮かべて、目だけを動かして彼女を見る。
「妖精か、女神みたいだと思った」
はっと、短く息を飲んだミレイに、グリーンは今度は真っ直ぐ顔を向けて、笑いかけた。
「今日は、ありがとうな。さ、……どこに行こうか」
ミレイは頬を紅くして、グリーンを見つめていた。
それを見返すグリーンの頬も、同じくらい紅く染まっている。
「わたし、…………」
ミレイが言った。雨音にかき消されそうなほど、小さな声で。
「ん?」
「……もう少し、このまま……が……ええな」
「……そうか」
グリーンは微笑んだ。ミレイは恥ずかしそうに笑い返し、グリーンの肩にあごをちょん、と乗せる。

雨足は少し弱まり、それでもなお、さらさらと降り続ける。

雨の陰に隠れて寄り添う若い二人を、ルージュは優しく見守っていた。

*** 10・06・08   歌多ねここ
ミミちゃんこと、伶さん宅のミレイちゃんをお借りしました!
しかしグリーン、こんなにイジられキャラでいいのか。
っていうか、門下生にまでミレイちゃんとのことバレてんのかよ!
まぁいいや……グリーンって10代だもんね……
まだまだ、からかわれてしまうような年齢ですよね!
ミレイちゃんの地方言葉変だったら、遠慮なく突っ込んでやってください;
グリミレ可愛くってだいすきです^^とっても2424出来ます!
これからも二人の仲を応援してますv
書かせていただき、ありがとうございましたv


* * *

 うわーい、顔のにやけが止まらない…!
 作者のくせにいっつも甘いネタ書けずに困ってるんですが、ココちゃんの手にかかるとこんなに甘い事になるようです。
 グリーンがいじられキャラなのは、半分くらいこっちのせいじゃないかなー…。こっちが書くグリーンがへたれなのが原因かと(爆)
 素敵な小説、ありがとうございました!

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