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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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「よっ、シャーン!」
「っ!! ……シャオさん!?」
 書類整理中のシャインの肩をシャオが思いっきりぶっ叩き、ものすごい勢いで叩かれたカントーの皇帝が目を丸くするのを、ミレイは半分他人事として見ていた。
 ……正確には、他人事として見ていたかったので半分現実逃避していた。ちなみにシャオに連行されたクチである。
 よもや、「最近シャインさん見てませんねー」などというのがとてつもなく不用意な発言だったとは、その時のミレイは夢にも思わなかったのだ。後悔先に立たず、とはよく言ったものである。
 まさかお仕事がとんでもなく溜まっていたから缶詰めになっていたとは、ポケモン世界の常識に疎いミレイには想像がつかなかった。今回で学んだ。取り敢えず、誰かを最近見掛けていない、なんて発言はしないようにしよう。お互いの為にならない。
 シャインがつんのめったので(シャオがどれだけの力で叩いたのかを想像しては負けなのか?)、彼の前に積み上がっていた書類の山が土砂崩れを起こしてミレイの足元まで広がっている。こんな事態を引き起こした責任の一端を感じているミレイは、責任など感じていなくてもやっただろうが、口喧嘩を始めた皇帝達を後目に床に落ちた書類を集める事にした。
 書類の束を集める以上、順番をごっちゃにしない為にも、書類には一通り目を通す事になる。もしかしたら守秘義務とかが発生するかもしれないが、そうなったらシャインは真面目だから即座にミレイの手を止めに来るだろう。珠姫ならあとから笑顔で脅してくるか、頭に強い衝撃を貰えるかもしれない。シャオの場合は……脳が想像する事を拒否した。何故だ。
 何はともあれ、書類を拾っていたミレイは、その中身が非常に興味深い事に気付いた。事業の計画やら何やらは、考えるだけなら面白いものだ。
 面白いから余計に、ミレイにも分かるようなずさんな穴や誤字脱字が、見ていられなかった。
 そこから先、ミレイの理性はしばし吹っ飛ぶ。
「ちょ、シャオさんいい加減に放してもらえませんか……! 仕事の邪魔しないで下さい」
「お前ちょっとは休憩しろよなー。ミレイにまで不審に思われるくらい引き篭もってるなんて不健康だぞ。倒れる前にやめるのが賢い大人ってもんだ」
「ミレイにまでって」
「心配されてたぞ? だから連れて来た」
「はぁ!?」
 ……唐突に素っ頓狂な声が耳を打ち、ハッと我に返った瞬間に何となく嫌な予感がして、ミレイはぐぎぎ、と書類から上半身を引き剥がした。ついうっかり、鞄から付箋を取り出して、あれやこれやのツッコミを入れてしまったのだが、よく考えたらそれはシャインの仕事をさらに増やしている事に他ならない。
 そのまま油の切れたブリキ人形が如き動きで二人を見たら、ばっちり視線が合ってしまって、頭の中が真っ白に爆発した。
「……」
「……」
 沈黙が、とっても、痛いデス。せめて怒って下さい。いやマジで。
 自分が何かの反応をしない事には永久にこのままになるかもしれないとの間違った脅迫観念から、きっかり三秒後、ミレイはがばっと頭を下げた。
「す、すんませんっしたっ!!!」
 もうなりふり構っていられない。ずばばばばっと書類をかき集め、机の上にどんどん積み上げ、もう一回頭を下げる。
「失礼しましたっ!」
 最早別の意味でまともな思考が吹き飛んだミレイは、そのまま執務室から逃げ出した。


 でもだからってこんな!

「いやー、やっぱ面白いな!」
「面白いな、じゃないですよ! まったく、また余計な仕事増えたじゃないですか!」
「付箋の事か? 無視ればいーじゃん」
「はがすのも労力が要るんですけど?」
「それもそうか。……ん?」
「今度は何ですか」
「いやー、ミレイちゃんやっぱおもしれーな」
「……?」


 衝動的に書いた短編。コラボ限定カップリングを作るのも面白いなーとか考えてた結果…だと、思います。

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「……ん?」
 珠姫を追ってイッシュに来ていたシャオは、街道から少し離れた草むらの奥に、見覚えのある相手を見付けた。
「ミレイちゃん? あれ、あいつもイッシュに来てたのか?」
 シャオが首を傾げたくなるのも無理はない。
 イッシュに来るほんの少し前、シャオはカントーでミレイを見掛け、喋った。
 その時の彼女は、イッシュに行くのにそこまで乗り気でなかったと思うのだ。
『んー……。でも、ポケモン連れていけないんですよね?』
『リィちゃんも、カントー離れるわけにもいかないでしょうし』
 だが、木々の向こうに見える、黒いニットの上着に黒いスカート、黒いハイソックスの少女は、ミレイにそっくりだ。
 取り敢えず声を掛けてみれば分かる事かと、少女に向かって一歩踏み出そうとしたシャオを、引き留める手がある。
「瑠幽。どうした?」
「マスター。『アレ』は……『何』?」
 プルリルの化身はそう言うと、長い髪を一瞬ぶるりと揺らした。
「……『アレ』?」
 瑠幽を振り返り、シャオはその言葉の意味を考える。
 彼女の口ぶりだと、そこにいる少女はまるで……。
 再び視線を向けた時、そこには既に少女の姿はなかった。
 音一つ立てずに、まるで最初からいなかったかのように。




 それは果たして夢だったのだろうか?

「やっ、ミレイちゃん。デートしね?」
 木の実を物色していたミレイは、最近聞き慣れてきた声に振り返った。
「あ、シャオさん。お早うございます」
 ペコリと頭を下げる。隣で、カイリューもペコッとお辞儀した。
「おう、おはよー。知ってるか? コガネで新しい喫茶店ができたんだけどよー」
「もっとオシャレなお姉さんと行った方が良いって、前も言いませんでしたっけ? っていうか、こんな時間帯から開いてるんですか、そこ」
 ちなみに現在、まだ陽が昇ったかどうかという早朝である。
「相変わらず、ガード固いなー……。んじゃ、ミレイちゃんはどこ行きたい?」
「え、デート前提ですか? デートは勘弁して下さいです。それに、別に今は特にどこか行こうとは……思ってないんですけど。木の実探ししてるくらいで」
「木の実なら、名所知ってるぜ」
「名所? ですか?」
 ちょこ、と首を傾げ、ミレイは「初耳です」と呟いた。
「だから、行かね?」
「ですから、デートは遠慮しますと」
「……ちっ」
 しかし、遠慮すると言った割に、ミレイは足元に置いていた木の実プランターを鞄にしまった。
「デートじゃないなら、構わないんですけどね。あ、ここでの用事は済んだので、わたしはもう行こうかと」
「はいはい、じゃあ、デートじゃなくて案内って事で手を打ってやるよ」
「え、本当ですか!? ありがとうございます!」
 これではどっちが妥協しているのか、分かったものではない。

「……ほえぇ~……」
 見事な果樹園を前にして、ミレイは呆けたような声を出した。
「成程です。名所理解です。これは見事ですね。見事すぎて、見てるだけでお腹いっぱいですよ。ってか、明らかコレ、手入れされてますよね……
「ん、そうだな!」
人様のもの取ったら、泥棒ですよね
「ま、そうかもな」
「シャオさ~ん……」
 ミレイはがっくりと項垂れる。何か文句を言いかけ、溜息を吐いて、代わりに力なく呟いた。
「いや、気持ちはありがたかったです、はい。ところで、もしかしてここって……」
「あー、この時間だからいるのか。もしかしなくても、ほら」
 シャオが指した先には、日課として木の実の手入れに来たシャインがいる。
「ん? シャオさんじゃないですか。珍しいですね、こんな早くからこんな所に来るなんて。って、ミレイもいるのか。ますます珍しいな。何かあったのか?」
「ほあぁ~。……やっぱり、シャインさんの果樹園でしたか。お早うございます、シャインさん。朝からお邪魔しちゃってすいません」
 ミレイは挨拶と共に、ペコリと頭を下げた。
「シャオさんが、木の実の名所があるって言うから、案内して頂いてたんです。これだけ見事な果樹園は初めて見ました。凄いですね」
「ミレイちゃん、ここ果樹園じゃねーから。確かにシャーンが木の実植えてるけど、ここ、カントー皇帝本部」
 シャオがニヤニヤと笑いながら言った言葉の意味をミレイが理解するのに、数秒の時を要した。
「……果樹園や、ない? ……んですか?」
 呆然と復唱するその口調から、一瞬敬語が抜けて地が出ている。それでも何とか取り繕ったようだが。
 彼女は気を取り直したように続ける。今度はもっと問題な発言を。
「っていうか、皇帝本部って初めて聞きました。そんな場所あったんですね! また一つ賢くなりました」
そうか、突っ込み所はそこにもあったか
 彼女の常識はたまにおかしな具合に抜けている。そしてその分、おかしな常識が入っている事もあって、差し当たって問題はなくても完全に問題がないと言い切れない理由になっていた。
「皇帝本部を知らねーなんて、どこの田舎の出身なんだよ。マジで」
「コガネっぽい所の北の方ですけど? 都会は転出入が激しいから、印象に反して行政情報が行き渡りにくいのが問題なんでしょ? 近所付き合いは少ないし、町内会は発達しないし、折込広報は見もせずに捨てるってのがデフォですし。……まぁ、これくらい、わたしが言うまでもなく常識でしょうけど
「そういう発想と視点を、どこで学んでくるんだか」
「へ? ああ、地方行政を担ってる『田舎』の下っ端のオジサンオバサンの受け売りです、今回のは」
 ミレイは珠姫ほど露骨に隠さないし、もっと愚かな奴のようにあからさま過ぎる嘘でごまかしもしないが、肝心な単語は出さなかった。今回も、大阪という単語や、大学、区役所という単語は出していない。もし大阪や近畿などという、明らかに彼女の出身世界を指すような単語を聞けば、彼女はどこまでも素直に全てを語るのであろうが……。
「そうそう、それで思い出したんですよ、シャインさん!」
 不意に、ミレイが真剣な表情でシャインを見た。
「この前の木の実のお礼に何が渡せるかなーって、ずっと考えてたんですけど、アイテムでロクなのは持ってないんで、噂話レベルですけど情報のタレこみでもしてみようかと」
「情報のタレこみ?」
 何だか、彼女らしくない物言いだ。わざわざ、情報という単語を持ち出す辺りなど。
「最近、イッシュって地方があるって聞くようになりましたが……もしそこでプラズマ団なる、ギンガ団を上回るダサいコスプレ集団を見掛けるようなら、要注意、だそうです。彼等は、近々ロクでもない事件を起こすともっぱらの噂です。騒ぎやお祭り好きの人々が、イッシュ地方で騒ぎが起きるのを、手ぐすね引いて待ち構えてるみたいですね」
 イッシュ地方と聞いてシャオは一気に不機嫌になる。きっと、そこの皇帝の事を思い出したのだろう。
 シャインはシャインで、新たなる面倒事の予告に、頭痛を感じた。
「……情報源は?」
「ポケモンセンターで、『田舎』の人達が噂してるのを聞きました。えーと、どこのポケセンやったかな……」
「お前、さりげなく田舎出身呼ばわりされたの、根に持ってるだろ
「はて、何の事でしょうかね? まぁ、図鑑や通信のネットワークを更新する間はバタバタしますから、騒ぎを起こすにはまたとない機会なんでしょうけど」
 ミレイは情報源に関して口を割るつもりは毛頭なかった。まさか、異世界でこの世界をモチーフにしたゲームや漫画やアニメがあって、奇妙に微妙に出来事がシンクロしてるなどと、言えようか。ましてや自分がそこの世界出身で、何故か未だにそこの世界のネットと通信できる機械を持っているなんて、素直に白状してもロクな事にならないのは明白だ。
 ちなみに、先程の台詞は完全な嘘ではない。彼女はポケモンセンターで部屋を借り、そこに引き篭ると自分のノートパソコンを使ってポケモン新作の情報をググってきたのである。
「まぁ、噂話レベルなので、聞き流して下さいなー」
 ミレイはあくまでもにこやかに締めくくったが、木の実一つの対価としては、それは少々重すぎたのではなかろうか。
 まぁしかし、身内と認めたり、恩を感じた相手にはとことん甘く、無茶をしてしまうのが、良くも悪くもミレイという人物の特徴であった。


 最初に書こうとしていたネタがあまりにも長く暗くシリアス(しかも未完)なので、もっと短くてギャグ要素も多いものを書いてみました。
 あ、最初に書こうとしていたものも、近々仕上げたいと思っています。

・取り敢えず、今回はシリアス混じってます。
 現時点で混じってます。あれー?何でだろー?後半はそこまでシリアスにしない筈…!

・ミレイの過去を匂わせる内容がそこここで出てきます。
 シリアス部分しかり、シャインさんとの絡み(まだ到達してない)しかり。
 人間恐怖症的ネタと年齢詐称的ネタと医学生ネタは盛り込みたいなーと。
 ……あ、だからシリアスが混じるのかwww

・現時点での登場人物予定はシャオさん(登場済み)、ミレイ(登場済み)、シャインさん(登場確定)、珠姫さん(高確率で登場)です。
 『リィちゃん』は今回は出さない予定。設定についてはこの前、以前の記事に追記したけど、彼も出すとシャオさんに酷い目にあわされそうなので(笑)、彼の予定役回りは全てシャオさんにかっさらってもらいました。

・ネタとしては、この前蒼坐さんが皇帝会議で触れていた、クチバでのお祭りを採用。
 手持ちを知らない関係で、おそらくメインイベント前。そこは、そこまで到達してみないと分からない。あ、ミレイの手持ちは結構登場します。

「やっ、ミレイちゃん。デートしねぇ?」
 シャオが声を掛けた時、ミレイは川辺に座り込んで考え事に夢中になっていた。
「……り、……ン? や、でも……。うーん、幽霊説か……」
「おーい、聞こえてるかー?」
 ミレイが見詰めている川の水面に、すっとミロカロスが顔を出す。
「ん? カントーに、ミロカロス?」
 そのミロカロスは、尻尾を跳ね上げると、ミレイの顔に思いっきり水を跳ね飛ばした。
「ぷにゃあ!? ……ちょ! ルージュ!! 何すんねん!」
 ルージュ、と呼ばれたミロカロスは、水面から持ち上げたままの尻尾でシャオを指す。
 ミレイはグギギ……と音がしそうなぎこちない動きで、シャオを仰いだ。
「え、と。えーと。シャオさん!? お久しぶりです……。すみません、ちょっと思考の海で溺れてたかも、です……」
「謝罪は後で聞くから、取り敢えず顔を拭けば?」
「あい、です……」
 ミレイは鞄からピンクのチェック柄のハンドタオルを出すと、ごしごしと顔を拭いた。ノーメイクなので、その手付きには何の躊躇いもない。
「本当に、すみませんでしたっ!」
「で、何に溺れてたって?」
「えーと、一子相伝と幽霊の実在について……」
「……は?」
 彼女はたまにぶっ飛んだ事を口にするが、今回もまた、かなりぶっ飛んだ事を考えていたらしい。
「シャオさんは、一子相伝の何かって実在すると思いますか?」
「まあ、あるんじゃねーの?」
「ですか。じゃあ、やっぱり、幽霊は実在するんですね!」
 だから、何故そう繋がるのかが分からない。だが幸いにも、ミレイはすぐに続けて言った。
「わたし、前々から、一子相伝って不安定なシステムだなーって考えてたんですよ。こんなに不慮の事故や不慮の病気や何やかやで、老衰で平和に死ねる人少ないのに、一子相伝なんて不安定な事ができるのかって。でも、実際にこっち来たらそういう話はよく聞きますし、それが成り立つのなら、何かの……何て言うのかな、側副路……じゃなくて、抜け道があるのかなって。で、それは伝説ポケモンによる記憶なのか、第三者の介入なのか、いっそ幽霊が実在しているからなのか、ってとこまで考えてですね。でも、一子相伝って事は、他者には洩らせないって事だから、やっぱり幽霊が……」
「はい、ストーップ」
 大体言わんがする所を察したところで、説明を止めさせる。でないと彼女は、もっと脱線して、いつまでもしゃべり続ける事ができるからだ。
「普通、そうすぐに死にそうにない奴選んで、継がせるだろ?」
 普段なら、何かしら反論を聞けば「そうですね」と頷くミレイが、この時は、顔を曇らせ、首を横に振った。
「シャオさん、流石にそれは賛成しかねます……。不慮の事故も、不慮の病気も、見て分かるなら誰も苦労しないです。若くして手遅れの悪性新生物で死んだりとか、ましてや……」
 ミレイは何かを言いかけ、諦めたように、溜息を吐いた。
「うーん、やっぱりわたしが悲観的過ぎるだけかもしれないですね」
「そうそう。人間、そう簡単には死なねーよ」
「……ですよね……。そうだと、信じたいです。あ、暗い話に付き合わせちゃってごめんなさい。何します? 暑いし、そこで涼みません?」
 ミレイは今日は珍しく、明るい色のミニドレスを身に纏っていた。と思ったら、それはパレオだったらしい。
 首の後ろの結び目をほどくと、パレオは一瞬にして大きな布に戻る。それを適当に畳み、上に鞄を置くと、水着姿の彼女はさっさと川に入って、ミロカロスに抱き着いた。
「ルージュ、さっきは怒ってごめんなー……。気付かせてくれてあんがと」
「そのミロカロス、よく育ってるな」
「ルージュは、レベルマックスまで育てましたもん。ミロカロスは育つの早いですよねー」
 何だか凄いような凄くないような事をさらりと言い、ミレイは笑う。
「それがお前の切り札か?」
「え、まさか! ルージュは普段から一緒にいますよ。ね、ルージュ!」
 上機嫌に返事をするミロカロスと、ますます嬉しそうに笑うミレイ。シャオに手の内を明かしている事など、全く気にした様子はない。
 彼女が一子相伝の事を考えていたのは、偶然だろうか。
「涼むのも良いけど、デートしてーなー」
「やぁですねー、シャオさん。デートは彼女とするものですよ、こんな通りすがりのオバサン引っかけちゃいけませんって!」
(……オバサン?)



 勿論、ミレイがそんな事を考えていたのは偶然です。
 例によって例の如く、無断拝借してます、すみません。でも、シャオさんはネタがいっぱいで小説書きたくなるんだ…。

「やぁ、ミレイちゃん! 早速だけど、俺とデート行かね?」
 シャオがそう声を掛けると、ミレイは弾かれたように振り返った。
「え、と。えー……と。シャオさんですか!? お久しぶりですー。えーと、デートはちょっと……遠慮させていただきます」
「そんな事言っちゃって、本当は満更でもないんじゃねーの? そんな熱心に見詰められると説得力ねーな」
 シャオをマジマジと見ていたミレイは、ハッと我に返ったように顔を赤くした。
「あっ、す、すみません! 失礼しました!」
「惚れた?」
「えー、見る分には格好良いですけど、デートはしませんからね」
「ちぇっ」
「ちぇ、じゃないですよ……。遊びに誘うなら、もっと別の人にして下さいな」
 呆れたように言いつつ、ミレイは今度は、シャオの足元を確認し始める。
「ん? 何か落ちてるか?」
「いや、ちゃんと影があるなーって確認してました」
「おいおい」
 今度はシャオが呆れる。影があるって何だ。まるでシャオが幽霊か何かのような扱いではないか。
「勝手に人を殺してんじゃねーぞ」
「へ? あ、いや、殺したかったわけじゃないんですけど……存在は疑ってました。幻だったのかなぁって」
「幻なら連絡先の交換なんかできねーだろ」
「あ、あー!! ですよね……」
 ミレイはシュンと項垂れた。用事がないと電話をしない彼女にとって、連絡先はあまり見ない項目なのだ。
 ちなみに、知り合いから電話が掛かってくれば、可能な限りは出る。彼女からは掛けないだけで。
「うーん、まぁ、シャオさんが実在の人だって確認できたのは収穫でした」
「一体何で、俺が幻だって思ったんだか」
 心当たりはあったものの、シャオは敢えてそういう言い方をした。
 ミレイはラピス地方を知らない。それなら、知らせる必要はない、と、ラピス皇帝は判断した。
 ラピス地方を知れば、ラピスが戦っている相手……この世界の腐った部分まで、知られてしまう可能性がある。
 ジョウト地方にいきなり現れ、リーグを制覇しながらも即座にチャンピオンの座を蹴った少女は、少し注意すべき人物として知られていた。目的が知れなかったから。
 しかし、シャオが声を掛けてみた時、その少女はラピス地方を知らず、あまつさえ、この世界を好いているなどと言ってのけた。本当に彼女がこの世界を好きなら、絶望させたくはなかった。
 勿論、演技の可能性だってある。だから、折に触れて、こうしてカマをかけねばならない。
 そして、そのシャオの言葉を聞いたミレイは、少し考える素振りを見せた後、こう答えた。
「だって、ラピス・ラズリは……邪念を振り払って、あらゆる幸運をもたらすんですよ? あれ? 幸福でしたかね……」
 そして、更に考え込む様子を見せる。
「あれ、でもラピスって言葉自体は、石を指すんですよね。特に鉱物とか宝石とか……。わたし、また思い込みだけで突っ走りましたかね? 本当にラピス地方がわたしの考えるような場所なら、ラズリ地方って名前だったんかもしれないんですね……。ラズリなら、その言葉単体で、ラピス・ラズリを指しますし……。うーん、やっぱり色々考えが甘かったみたいですー。自分で言っててこんがらがってきちゃいました。これじゃ、どうして幻だと思ったのかっていう理系的説明は、無理っぽいですね……」
 途中、独り言のような勢いでブツブツと呟いていたが、結局説明できないという結論に達したようであった。
「ミレイちゃん、もう少し考えてからものを言おうな」
「あい、気を付けますです……。えーと、要するにですね。わたし、シャオさんにはメッチャ失礼な事に、ラピス地方知らないんですよ。で、それはあんまりにも失礼だから、調べてみようって思ったんですけど……何にも分からなくて。だから、ラピス地方は、わたしが垣間見た、『夢の奥の桃源郷』なんじゃないかなって。桃源郷は、人の手には届かない幻だから、シャオさんも、本当は幻だったんじゃないかなって……思ってました」
 ミレイは頭を抱え出した。
「あれ? でも、シャオさんが実在の人って事は……あれ?」
「ま、あれだ。深く考えると負け。それより、デートしね?」
「だから、デートは遠慮しますって。負けっすか……。シャオさんが考えちゃ駄目って言うなら、深く突っ込むのはやめときます。きっと『また』わたしの考えの範疇をかる~く飛び越えてる何かがあるんですよね。何せ、……っ! っつぅ。舌噛んじゃいました……」
 ミレイはそこで何故か、舌を噛んでしまい、続きの言葉を一旦飲み込んだ。というか、無理矢理黙ろうとして、その結果舌を噛んだかのようだった。
「……えーと、どこまで言ったんですっけ? ま、考えすぎるのは悪い癖だってよく言われますし……」
「ミレイちゃん、アレだな……。頭は悪くないんだろうけど、バカだな」
「何でか分からないんですけど、よく言われます……。わたし、頭悪いのに、何でそう買い被りたがるんでしょうね?」
「普通は馬鹿にされた事を怒ると思うがな」
 お互いに秘密を抱えながらも、表面上は和やかに、会話は続く。


 ミレイが言いかけて無理矢理黙り込んだ事。それは、至極単純で。
(何せポケモンすら実在するこの世界だから、今更どんな幻が実体持ってたって、おかしくないですよね?)

「うーん……ここのはどうなんやろなぁ?」
 少女はは木の実の生っている木を見上げ、呟いた。
「……ま、見てみりゃ分かるやろ。リュウガ! ちょいこれ上ってみるから、ヨロシク!」

 がさごそがさごそ。
 オボンの木から、何だか怪しげな音がする。そして、木の根元ではカイリューが、ハラハラした様子で上を見上げている。
 木の実の世話に来たシャインは、一体この状況をどうしたもんかと思った。
「んー。無いみたい! ってか、もしかして、これって誰かが手入れしてるんかな……? ものの見事に、食べ頃までのんしかあらへん」
 木の中から、少女と思しき声がした。どうやらカイリューに向かって叫んでいるらしい。
「また別んとこで探そ。んじゃ降りるわ。リュウガ、もうちょい待っててな!」
 カイリューは返事をするように鳴いた。つまり、上っているのはカイリューのトレーナーで、何故かお目当ての木の実は見つからなかったようだ。自慢じゃないが、木の実育てには自信があったシャインは、何が気に入らなかったのかと少しムッとする。
「……あっ」
 息を呑んだような、声にならなかったような、微かな悲鳴。その意味を頭で把握する前に、シャインの身体は動いていた。
「みゃあぁ……あ? あれ?」
「……ってぇ」
 木から落ちてきたのは、シャインよりも15cmばかり背の低い少女で、恐らく身長の割に体重は重くない。
 しかし、いかんせん木から落ちてきた勢いというものがあるので、受け止めたシャインにも衝撃は伝わった。
「はれれ? ……あっ! すみませんでしたっ!!」
 少女は慌ててシャインから飛び退くと、ペコペコと頭を下げる。ヒョコヒョコと、彼女の二つに括られた髪が揺れる。
「お前、怪我はないか?」
「へ? あ、はいっ! ……大丈夫ですっ!」
 大丈夫です、の前に不自然な空白があったのに気付いてしまうのは……そして、彼女が手をギュッと握りしめたのに気付いてしまったのは、彼の悲しい性だろう。
「おい、手ぇ見せてみろ」
「うにゃ!?」
 案の定、少女の手の平は皮が摺り剥け、血が滲んでいる。
 シャインは、はぁ、と嘆息した。
「大丈夫じゃないだろ。ったく、何やってたんだ?」
「あ、え、えーと……プランターに植える、木の実を探しに……。ここのんは駄目でしたけど」
「……駄目、だと?」
「あ、悪いって意味やないです! むしろその逆で、食べ頃のんまでしか生ってへんかったから、もらわれへんかったんです……。食べ頃のんは、ポケモン達が使うでしょ。せやから、熟しすぎて木から落ちる寸前くらいの探してたんですけど。この木、めちゃおっきいだけあって、手入れしっかりされてるっぽくて」
 ポトリと、シャインにつかまれた少女の手の上に、オボンの実が一つ、落とされる。
 少女のカイリューが、一個もいだらしい。
「ちょ、リュウガ……! あかんやん、勝手に取っちゃったら! ああもう、木の実は取れちゃったらもうくっつけられへんねんで!? こんくらい、洗ってデブリって消毒してほっといたらそのうち勝手に治るのに」
「そう責めてやるな。こいつは、お前の事心配してやったんだぞ?」
「……えーと、怒らないんですか。これ、世話してたんじゃ……」
「どうして分かった?」
「顔と態度に出てますた……」
「……」
 シャインは思わず溜息を吐きたくなった。さっきも吐いたところだというのに。
「取れちまったもんはくっつかねーんだろ? それはやるから、責任持ってその怪我治せ」
「うにゅううぅ……。すみません、迷惑かけまくっちゃいまして。え、えーと……」
「?」
「すみません、よく考えたら、名前知りませんでした。あ、わたしはミレイっていいます。基本的に、ジョウトとカントーふらふらしてます」
「俺は……。……シャイン・ウォーカー」
「シャインさんですね? 本当に、何から何まですいませんでした!」
 ミレイはものの見事にシャインの名前に関してスルーしてのけた。それがカントーの皇帝の名前と一致しているとか、某有名レンジャーのジャッキー・ウォーカーとファミリーネームが一緒だとか、そういう辺りを含め。
「それじゃ、わたし、ポケモンセンターでも行って、水道とか消毒液とか借りてきます。リュウガ、乗せてってくれる?」
 オボンの実を大事そうに抱え、彼女はカイリューの背によじ登ると、すぐに飛び去って行った。

 ちなみに、ミレイの頭の中では、シャインは木の実をくれた親切なお兄さんとしてインプットされたようである。

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