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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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 果たしてミレイの部屋は、入口から見えた印象そのままに、物で溢れ返っていた。
 ドアから入ってすぐに、書籍が積み上がっている。本棚は本と大量の封筒で既にいっぱい。机の上の本棚も、半分は封筒で占められている。残り半分は、机の上に積み上がった山に隠されて、よく見えない。
 本の背表紙には薬理学だの病理学だの、画像診断だのと書かれていて。何とはなしに封筒を見たら、隅に消化器だの感染統合だの救急だのと書かれている。
 ――こいつ、医者の卵か!!?
 だが、溢れ返っているのはそういうお堅い本や封筒だけではなく、本棚の一部や机の上、更にはベッドの横の移動式ラックの上にまでぬいぐるみが鎮座していた。特にベッドの横に置かれているものは、どこからどう見てもポケモンドールだ。フシギダネ、チコリータ、ヒノアラシ、ミュウ、カイオーガ、ラプラス……。
「……リィちゃん?」
 上着をハンガーに掛けたミレイが、訝しげな声を出す。『パソコンの部屋』とやらに先に行ってる筈、とか思ってるんだろう。
 ――さぁ、腹を括ろうか。
「なぁ、ミレイ」
 声の響きから何かを感じ取ったのだろう。ミレイの顔からすっと表情が抜けた。
「さっきはいきなり泣かれてうやむやにされたけどさ。オレ……怒ってるんだぞ」
「そ……っか。そりゃ、そうやんね。記憶いじって帰ったもんね。うん、それは悪かった。記憶いじんのはアカンよね」
 ミレイは視線を下に逸らしかけ、手を強く握ると、目を合わせて消えそうに震える声でそう言った。
 何かあると視線を逸らしがちな彼女にしては頑張ったのだろう。でも、謝って欲しいのは記憶が云々と言う、そこだけじゃない。
「そりゃ、記憶をいじられたのも腹立ったけど、そこじゃねーだろ」
 先程から、ミレイはどんどん顔色を悪くしている。下手をすると倒れるんじゃないかという程に。
 けれど、これだけは、言っておかねばならなかった。
「好きな奴にいきなり消えられてみろ。どんだけ苦しい気持ちになったか。……分かるか? お前がいなきゃ、足りねーんだよ」
 真っ青になりながら聞いていたミレイは、固まった。数瞬後、止めていた息を浅く繰り返し、唾を飲み込んで、更に空飲み込みして、それでも何も言えなかったのか、訳の分からない呻き声を上げた。
「……嘘や」
「嘘じゃねぇよ」
「……夢や」
「一発殴ってやろうか?」
「孟宗竹!」
「妄想じゃねーのかよ!?」
 独り言っぽい呟きにいちいち否定してたら、最後に大ボケが飛んできた。それで元に戻ったかと思いきや、彼女は再び「……やっぱ夢かも」と言い出す。
 今度こそ、色んな意味を込めて、頭を軽く小突いてやった。流石に、いざ目の前にすると、全力でぶん殴る事は出来なかった。
「ったぁ!?」
「目は覚めたか?」
「……きっと多分おそらくメイビー」
 小突いた箇所を押さえるミレイの耳が、赤い。
「最初は殴りに来たんだけどな。こっち来て、確信した。お前、オレと来い」
「……は?」
「あっち帰ろうぜ。アルセウスが協力してくれる」
 だが、ミレイは首を横に振った。
「……や、流石に無理。わたしこう見えて23やし、オバサンやし」
「だからたまに大人っぽかったんだな……。ま、多分、帰ったらまた縮むだろ」
「学校あるし」
「お前がいなくても、謎の影武者がいてくれたんだろ?」
「……リィちゃん怒ってるし……」
 煮え切らない態度に腹が立って、気付いたら怒鳴っていた。
「あー、もう、グダグダ抜かすなっ! お前の弟にも許可は貰ってるんだ、お前は黙ってオレに攫われときゃ良いんだよ! 変に思い切りの良いお前はどうした!? オレが、お前を必要としてる。それで充分だろ?」
 ミレイは再び絶句。今度は思考停止ではなく、むしろ頭を忙しく働かせていると、グレン島での付き合いから雰囲気で読み取る。
 彼女は段々顔まで赤くしていき、しまいに呆れたように言った。
「……リィちゃん、プロポーズに聞こえんで?」
「この期に及んでボケるか。プロポーズだ。ついでに駆け落ちの勧めだ」
「あ、やっぱり……」
 きっと自分の顔も、今真っ赤だ。新たな黒歴史の一幕を足してしまった気がしてならない。
「んじゃ、しつこくてゴメンやけど、ホンマに後悔せぇへん? わたしが傍におって、ええのん?」
「くどい。そりゃ将来的に後悔するかもしれねーけど、だからと言って今から後悔したくねーよ。今はお前じゃなきゃダメなんだ」
「……そっか」
 何を思ったのか、ミレイは真剣な顔でペコリと頭を下げた。
「不束者ですが、よろしくお願いします」
「……は?」
「うん、そこはちゃんと挨拶しとかな。気が済まん」
 って事は……。
「リィちゃんについてくよ。やったろうでないの。世界を股に掛けた駆け落ちってやつ」
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