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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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 まだ外の暗い明け方、灯りが漏れているジムリーダーの控室の扉から、ミレイはそっと中の様子をうかがった。
 今日は12月25日。俗に言う、クリスマスだ。
 トキワジムの若いジムリーダーは何だかんだ言って面倒見が良いので、彼が就任して押し掛けジムトレーナー達が増えて以来、トキワとマサラでは季節毎のイベントが開催されるようになった。その中にクリスマスが含まれていない筈はなく、昨夜はジムで盛大なクリスマスイブのパーティーが開かれた。
 日頃は黒いジムの内装を、年末大掃除の下準備も兼ねて取っ払い、明るく飾り付け……。ミレイも、力仕事には参加しなかったが、サンドイッチを大量に作って持って行った。
 パーティーは盛況のうちに終わり、子供達が満足して帰った後で、片付けを手伝おうとしていたミレイも追い返された。ジムリーダーのグリーンはやたらとミレイのその夜の泊まる先を気にしていたが、ミレイはその時、機嫌を損ねて拗ねてしまっていたので、行き先は言わずに出てしまった。当然そうなると、泊まり先はジムリーダーさえ追ってこれない(と思われる)シロガネ山の麓のポケモンセンターである。だが所詮一時的な激情、頭の冷えたミレイは、夜中と明け方の狭間の時間に目覚ましを掛けて仮眠を取り、こうしてまだ暗いうちからトキワのジムに忍び込んでいるという訳だ。
 それにしても、来る途中にジムの中も見てきたが、片付けられた形跡はない。パーティーの後の状態そのままに。
 灯りが点いているので、やや警戒しながら中を覗き込んでいたミレイの肩から、ふっと力が抜けた。
 控室では、グリーンが、書類作成用のパソコンの前の椅子に座り……寝落ちしていた。
 恐らく寝落ちだ。きっと寝落ちだ。あんな不自然な体勢で突っ伏しているくらいなら、ベッドに寝れば良いものを。もう遅い気もするが、風邪を引く。ついでに肩が凝る。
 ……それにしても、と、ミレイは首を傾げた。
 パーティー中は、グリーンは普通の服を着ていた筈だ。サンタの格好をしていたのは、むしろ彼の祖父の筈で。
 なのに今、眠っているグリーンの格好は、どう見てもサンタコスで。
 起こして聞いてみたい気もするが、というか、起こしてベッドで寝なおしてもらった方が良いような気もするのだが、それでは本来の目的が達せられない。
 ミレイは足音を忍ばせて控室に滑り込むと、奥のベッドから毛布と掛布団を担ぎ出し、グリーンに掛けてあげた。
 そしてひっそりと『用事』を済ませると、ジムの後片付けをするべく、控室を後にした。ジムの音が響かぬよう、扉はきちんと閉めて。

「……ぅ……ん。……いけね!! 寝ちまったか!?」
 パーティー後の『ラストイベント』の更に後、書類を片付けていた筈なのに、途中から意識が飛んでいた。
 慌てて突っ伏していた頭を持ち上げると、肩から重い塊がずり落ちる。
「布団……? 誰が?」
 だが、掛けられていた布団と毛布は奥のベッドの物。流石に残された痕跡は見つけられない。
 首を捻りながら布団をベッドの上に戻し、机に戻ってきて、グリーンは残されていたもう一つの痕跡に気が付いた。
 布の袋だ。紺色の、何だか形が少々歪な布袋。緑とベージュで編まれた紐で、口を縛られている。
 手に取ってみれば、紺色の袋は本来巾着袋として利用できるものが、わざわざただの袋のように紐で蝶々結びにされていた。形が少々歪に思えたのは、縫い目が歪だからだ。どうやらこの巾着袋、手縫いらしい。
 紐をほどいて開けてみると、中には同じ色の小さな巾着袋が3つと、薄青の封筒が入っていた。
 薄青の封筒を開いてみる。そこには、二つ折りのカード。
「Merry Christmas!」
 手書きのカードには、そんな文字が躍り。影さえも蒼い、純白のツリーが描かれていた。飾り付けは、てっぺんの金色の星を除いて、蒼と白銀だ。
 差出人の名前は、ない。宛先すらも、実は書かれていない。けれど、そこから仄かに漂う香りが、何となく覚えのあるもので。更に、こういうイラストを好みそうな相手というところから、グリーンはあっけなく相手に思い至った。
「ちくしょー、先越された……」
 相手を知ったうえで改めて見れば、袋の口を縛っていた紐は、彼女がよく趣味で編んでいるものと同じではないか。以前興味を示した事を、律儀に覚えていたのだろう。
 本当は、パーティーの後、子供たちが眠っているところにプレゼントをばら撒きに行く『ラストイベント』の折に彼女の所にも行きたかった。けれど、追い返し方が拙かったらしく、彼女は拗ねてしまって、どこに泊まるのかを教えてくれなかった。もしかしたらジョウトに帰ってしまったのかもしれないと思っていたが、案外近くに泊まっていた可能性が高い。
 小さな巾着袋のうち、一つにはシルバーアクセサリが入っていて、一つには貴重な技マシンが詰まっていた。最後の一つには、何故かハートの鱗が大量に詰まっていて、グリーンは一瞬思考が停止しかけた。
(お、落ち着けオレ……っ!)
 そして本当に冷静になって考えてしまえば、恐らく彼女は甘さなど考えなかったであろう事が容易に想像できてしまうのが悲しい。これは多分、ポケモンの育成をガチでやるなら必要だからと、集めてきてくれたのだ。どちらかと言えば、技マシンとセットのものだ。
 仲の良い男女である以前に、グリーンはカントー最強のジムリーダーであったし、彼女はジョウトを制覇した事のあるポケモントレーナーだった。その関係がなければ知り合う事もなかっただろうが、せめてクリスマスプレゼントくらい……。
 グリーンは知らない。ミレイが自分から実用品以外をプレゼントにする事が、どれほど稀な事なのかを。シルバーアクセサリーが入っていた事が、彼女なりの精一杯の冒険だったなどと。
「……はぁ~、着替えるか」
 グリーンは嘆息すると、控室についているシャワーを浴びに行った。


 * * *


 流石にジムトレーナー総出で夜中に子供たちを起こさぬよう気を遣いながらプレゼントをばら撒いた翌日とあってはジムは臨時休業となり、グリーンは一旦マサラの家に帰るつもりで控室を出た。
 と、ジムの方から歌声が聞こえてきた。陽気なクリスマスソングを、のびのびと歌う少女の声だ。
 控室の扉を閉めると、その音がジムにも響いたのか、歌声はピタリと止まる。
 ――ここからは時間との勝負だ。
 全力で走れば、案の定、ジムから逃げようとしているミレイに追い付く事が出来た。彼女は旅をしているポケモントレーナーとしては、やや身体能力に難があるのだ。
「……リィちゃん、大人気ない……」
「それはお前もな。ったく、片付けくらい、後から皆でやるっつうの。それより、ほら」
「んにゅ?」
 赤いリボンのついた深緑色の箱を渡すと、彼女は目をパチクリとさせた。
「ホントは夜の間に置きに行きたかったんだけどなー。クリスマスプレゼント」
「!!」
 箱を受け取ったミレイの両手に力が入るのが、見ていても分かった。
「あ……開けてみても良いん?」
「良いぜ」
 ミレイは箱の包装をなるべく破らないように、慎重に開けていく。
「わー! キレイ!!」
 グリーンが中に入れておいたのは、雪の結晶をかたどった髪飾りだ。冬になってから、彼女は首筋が寒いと言って髪を括らずにいる事があったので、ヘアクリップである。
「ありがと、リィちゃん! 着けてみる!」
 ミレイは帽子を脱ぐと、髪を解き、手櫛で軽く整え、横の髪を後ろに回して留めようとする。
 それを見守っていたグリーンは、彼女の左手の薬指に、見覚えのある指輪があるのを見付けた。見付けてしまった。
 蔦の様な模様のある、翡翠色の小ぶりな指輪。
 確かに、かつて贈ったものだ。
「着けてみたー!」
 嬉しそうに笑うミレイは、普段指輪など着けない。というか、嵌めているのを見るのは、今回が初めてかもしれないくらいだ。
「あ、そや。リィちゃん、メリークリスマス!」
 ああ、彼女には敵わない。今年のクリスマスは、結局プレゼントを貰いっぱなしだった。
「おう、メリークリスマス」

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