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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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「あのね、ターちゃん」
 トキワのポケモンセンターに、彼女をよく知るトレーナー、ウタタを呼び出し、ミレイは泣くのを堪えているかのような思い詰めた顔に無理矢理笑顔を浮かべた。
「わたし……明日、シロガネ山行ってこようと思うんだー……。やからさ、ちょっち、頼み事してもええかな?」
「……ついに、行くんだね」
「……うん」
 二人がここまで沈んだ雰囲気になるのには、それなりの理由がある。それは、何故ウタタがミレイの事をよく知っているかにも関係があった。
「行ったら、もう二度と戻ってこれないかもしれないって、ミレイちゃんが自分で言った事だよね。それでも行くつもりになったのなら、止めないよ。でも、どうして行こうって思えたんだい?」
「ケジメの為……かな。このまま行かなかったって、生殺しやもの。やらない後悔より、やっちゃった後悔。ビクビクしてんの、性に合わんのよね、きっと。いつ強制送還されるか悩む前に、そんな可能性はちょっとでも潰す。行ったって行かんくったって、あっちに還される時には還されるんかもしれんけど……今回のは、どっちに転んでも、多分一生後悔するさけん。一番ええのは、行って、無事に帰ってこれる事やけどね」
 二人は、ポケモンのいない世界から、ポケモンのいるこの世界に意図せず迷い込んだ者同士。何の偶然か、以前の世界でも友達だった二人が、異世界で再び巡り会った。
 迷い込んだのはウタタの方が先で、既にこの世界で残りの人生を過ごす事を決め、それを神とも呼ばれるポケモンに保証されている。
 しかし、ミレイの方は。
 未だに彼女をこの世界に迷い込ませた原因を知らず、いつ元の世界に還らされてしまうかも分からず。手がかりと言えそうなのはただ、彼女の道程がゲームのストーリーをほぼなぞっているが故に、それを最後までなぞりきれば、何かが起こるかもしれないという曖昧な仮説のみ。
 そう。何かが起こるかもしれない。けれど、起こらないかもしれない。ミレイの出自が、ゲームのそれとは違うが為に。
 そして、偶然ゲームと同じ道程を辿っているだけだった場合、何もしなくても、いきなり何かが起こる可能性もあるという事だ。
 何かが起こる……元の世界に還ってしまう事を、ミレイは恐れていた。ウタタほどではないかもしれないが、彼女は元の世界には見切りをつけていた。それは、この世界の人々の純粋さやポケモン達との触れ合いによるところも大きいだろう。それに……。
 物思いにふけりかけたミレイを、ウタタの声が現実に引き戻す。
「ミレイちゃんは勇気があるね。自分なら、敢えてそんな危険を冒そうとは思えないよ。で、頼み事ってなぁに?」
 ミレイは鞄から、封筒を出した。
「うん。もしわたしが戻ってこれなかったら……そいで、誰かわたしの事、気にするようやったら……これ、渡して欲しいねん。わたしが、別の世界から来たこと、書いてある。だから、探すなって。ターちゃんの事は書いてへんから、そこは心配せんでえぇよ。ただ、わたしから預かった事にしといてーな」
 ウタタは神妙な顔で、封筒を受け取る。薄っぺらい筈の封筒が、何故か、手にずっしりと重く感じた。
「んじゃね。また会えたらええな。おいで、シェン」
 ミレイが呼んだポケモンの名前に、ウタタは軽く目を見張った。
「カイオーガじゃん!」
「ん。やるからには、本気で行く。霰なんて、降らせない。吹雪なんて、使わせない。全員、一撃で、叩きのめす。それがわたしのスタイルやもん」
「そっか……。頑張ってね」
「うん」
 そして、彼女は、トキワのポケモンセンターを出て行った。

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「ミレイちゃんはさぁ」
「んー?」
「この世界がある日いきなり消えてしまうかも、って思ったこと無い?」
「ふぇ!? ……わ、わたしがこの世界から消えるかもしらん、となら、ずっと思うてた、けど……」
「あ、そうだったね」
「……いきなり、どうしたん?」
「うーん……この世界ってしっかりしてるから、あの世界と対等なパラレルワールドだって思ってはいるんだけど。……でも、【あっち】には【こっち】のゲームがある訳で」
「う、うん。せやね」
「【こっち】で走れば疲れるし、転べば痛いし、血だって出る、だから私達はこれが本物だって思ってるけど、本当はそれは全部錯覚で、実は【こっち】ってゲームの中に過ぎないのかもなぁ、って。【あっち】で誰かがリセットしたら、同時に消えてしまうような世界なのかも、って」
「うーん……。そうかもしれんね。ホンマやったらメッチャ怖い話やけど……でも、しゃーなくない? こういうのって、考えちゃオシマイな項目の一つなんちゃうんかなぁ……」
「……うん、こんなこと、本当は考えちゃいけない事なんだと思うよ。何が真実であったとしても、【こっち】で生きていくと決めた以上、私達にとってはこの世界こそが、本物以外の何物でもないよね。……ごめん、変なこと言った」

 あのね、わたしに興味を持ってくれたんは嬉しいよ?
 メッチャ嬉しい。やけどね。
 わたしについてきたいって言うなら、わたしは、条件出さなあかん。
 いーい?よぅ聞くんやで? んで、よぅ考えるんやで。
 わたしは、ね。実は、異世界から来たんよ。しかも、割かし突然に。
 この意味、分かっかな?
 わたし、何で自分がここにおるのか、分からへん。
 つまり、いつ、何をしたら元の世界に戻っちゃうのか、分からへん。
 これってとっても怖い事やと思えへん?
 わたし、ある日突然、何も知らせんと、消えちゃうかもしれないんやで?
 せっかくついてきてくれてるポケモンの皆、放り出したような状態で、やで?
 わたしから放り出すつもりはないねん。やけど、そういう事が起こり得るって事や。
 それでも、わたしについてこようって、思えるんか?
 ん? この子達が、気になる?
 言っとくけどな、わたし、ついてきてくれてる子ほぼ全員に、同い事、言ったで。
 タマゴ預かっちゃって、孵ってもうた場合はしゃーないけどな。
 さ、条件は言うた。ホンマ、マジに、よぅ考えや。
 後悔しない自信があるなら、この子にボール持たすから、弾いてみぃ。
 裏切られたと感じそうなら、後悔しそうなら、今が引き返すチャンスや。

「なぁ、ターちゃん」
「なに?」
「【こっち】が【あっち】に似たんか、【あっち】が【こっち】に似たんか、ホンマはどっちなんやろな?」
「……ミレイちゃん、何怖いこと言ってるの」
「【あっち】には【こっち】の話があるから、一見【こっち】の方が【あっち】に……。あー、何て言うたら良いんやろ。言い方悪いけど、作られたかのように、うちら考えてるけどさ。実際のところ、どうなんやろな。実は完全に対等っつかパラレル? それとも逆に……?」
「それは……きっと、考えてはいけない事だよ」
「せやねんよね……。考えたって意味のない事やのは、分かってんねんけどね……。ごめん。変なこと言うた」

 どうもー、初めましてですー。ワカバタウンの方から来ました、ミレイって言いますー。ちょっと、ジムの責任者にご挨拶に来ましたー。
 あ、いや、だから、挨拶に来ただけですって!
 あのー、も~しも~し? ちょっと、わたしの話聞いてます?
 はぁ……。また、聞かれてへん感じやなぁ。
 しゃーない。負けるわけにもいかへんしな。

 どうもありがとうございました~。
 ホンマ、挨拶に来ただけやったんですけど……。
 え? あ、いや、だから、挨拶。
 ウツギ博士が言ってはったんですよ。ジムのある街行ったら、ちゃんとジムの責任者に挨拶しときなさいって。ちょっとお邪魔します、お世話になります、宜しくって。でなきゃ、怪しい人と間違われても仕方ないからって……。
 うーん、やっぱりわたし、騙されてる気がすんなぁ……。でも、ホンマの事やったら、嫌やしなぁ……。

 ふと、ミレイは気付いた。
 グレン島は噴火した。噴火したという事は、グレン島は活火山だったという事だ。そして、活火山があるという事は……。
 そこには、温泉が湧く可能性があるという事だ。ホウエン地方の、フエンタウンのように。
 だてに、火山大国と言われる事もある日本出身じゃない。ミレイは、温泉は好きだった。
 そこで彼女は考えた。どうやったら、温泉が掘れるのかと。
 できれば、海水ではなく、真水に近い湯が欲しい。……きっと大丈夫だ。グレンには元々、人の住む街があったんだから、水くらいあった筈だ。
 勿論、適度な温度が欲しい。……きっと大丈夫だ。昔のグレンタウンのポケモン屋敷には、炎タイプのポケモンが住んでいた筈だ。という事は、彼等を惹き付ける熱が、どこかから発生していたに違いない。
 ただ温泉に浸かりたいが為に、ミレイはありとあらゆる事に強引に屁理屈を捏ねくり回し、不可能ではないと結論付ける方向にもっていく。
 こういう時の彼女は怖い。というか、怖いもの知らずである。
 彼女は早速、自分のポケモン達に頼んで、温泉を掘る作業に取り掛かった。自分の世界ではそれが如何に手間のかかるものなのか、例えばボーリングをしたりとかしなければならない事など、今の彼女の頭にはない。
「アッキー、この島は全体的に暖かい? ルージュ、真水の近い所があったら教えてな!」
 炎タイプのポケモンであるバクフーンのアカツキや、水タイプのポケモンであるミロカロスのルージュに、条件に合いそうな場所を探してもらう。
「んで、ここには人が来る事もあるさけん……なるべく、物陰が狙い目やな」
 ミレイはそこで、自分のミスに気付いた。
「あ。穴を掘るポケモン、おらへん」
 しかし、考え込んだのは一瞬の事。
「ま、えっか。他の攻撃技かて、地面を抉るくらいはできるやろ」
 楽観的なのか考えなしなのか、微妙な所である。
 そもそも、フィールド技を使うのにだってバッジが要るというのに、何を考えているのか。やはり、考えなしなだけのようだ。
「ん? そこはええ感じなん? よっしゃ、じゃ、掘ってみよか。アッキー、スピードスターで岩を切り出す! コハクはパワージェムでアッキーと同じ作業ね。リーシャ! サイコキネシスで切り出された岩持ち上げて、積み上げるよ。ルージュは水脈の確認続けてくれると助かる。ま、気長にちょっとずつ進めてこか。疲れたら、言ってね。別に今日一日で掘りきろうとか思てへんから。その分、広めに作るつもりやし、屋根とかも付けれたらええなぁ思うけど」
 珍しくかなりやる気のマスターに、ポケモン達は、思わず顔を見合わせたとか何とか。

 彼女に比べて【彼女】は少しばかり、背が高かった。そして、髪は少年のように短く切られており、度の強い眼鏡を掛けていた。彼女に比べて【彼女】はずっと老け顔で、まるで彼女の姉か母親のようであった。
 けれど、それは些細なこと。彼女に比べた【彼女】の、視線の冷ややかさに気付いてしまえば。
「いつまでも夢見てる暇なんて、あるわけないやん。わたしかて、いつまでも子供やないんやで?」
 淡々と、【彼女】は言った。
「お遊びは、もう卒業したの。そんな暇があったら、勉強しないと」
 彼女はその言葉を聞いて、仕方ないよね、というように笑った。
「スゥさんがこんなおもんない人間になっちゃったんは、わたしのせい。でも、それで良かったんかもしれへんね。【あっち】は……それだけ、面倒くさい場所やねんから。いつかは勉強せなあかんって分かってた。いつかは真面目にならなあかんって。でも、わたし、大人になんてなりたくなかった。いつまでも、遊んでいたかった。矛盾を抱えた心が、偶然分かれてわたしとスゥさんになった。周りの思う理想のわたしと、その理想に沿えないわたし」
「馬鹿らしい。幻を見るなんて、精神科の先生に文句を言わなあかんな。薬、効いてへんやんか」
「こんな味気なくなっても、むぅちゃんしか気付かない。っていうか、むしろ周りは喜んでる。わたし、こっちの世界に来れて、ホンマにラッキーやなって思うよ」

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