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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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「どうせ俺には才能なんてないんだ! あんたみたいな天才に勝とうなんて、夢物語だったんだよ」
 ミレイに負けた、まだ年端もいかない少年が悔しそうに言う。
 ミレイは、少年をジッと見た。
「それはない」
「え?」
「わたしが天才っていうのは、大きな間違いやよ。わたしには、バトルの才能なんてあらへん。技を使いこなすセンスも、最初の頃なんてポケモン達と一緒に走り回れる体力さえ、あらへんかってんから」
 彼女は、少年が持つボールを見た。
「リーグ挑戦するくらいなら、……愛があれば行ける。ポケモンに対する愛があれば、どうやったらポケモンが痛い思いせんで済むか考えるし、一緒に特訓したりする根性だって湧くし、ポケモンかて応えてくれる。流石にそれ以上になったら……バトルセンスとか、問われるかもしらんけど。生憎、わたしはそこまでのレベルちゃうし。わたし以上の天才鬼才は、世の中に溢れ返っとる。わたしなんかで絶望しとる場合やないで。才能なくてもリーグ挑戦まで上り詰めた実例が目の前におるんや。わたしよりセンスありそうやし、もっと上を見るべきや」
 それがどれだけ傲慢な台詞なのかを、ミレイは知らない。

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「……」
「……」
 お互いに、無言だった。片方は息を軽く荒げ、もう片方は、ただ息苦しいまでの沈黙を守り。
「わたしの、勝ちですね」
 守っていた沈黙を破る少女の声は、勝者らしからぬ悲痛の色を色濃く宿す。
 弾んだ息を落ち着けるかのように深呼吸した少年は、無言のまま、少女に背を向けた。
「あのー、さっきは聞いてもらえなかったんで、もう一回聞きたいんですけど」
 少女は少年の背に声を掛けた。
「この辺りに、ファイヤー以外の伝説や幻のポケモンって……」
 彼女の言葉が終わらぬうちに、少年の姿が、ふっと掻き消える。
「……いません……よねぇ……」
 レッドがもういないと悟って、ミレイは雪の降る空を仰いだ。
「あー、終わった。このままここで寝たら……色んな意味で、マジに終わるんやろなぁ」
 凍死するにせよ、夢から覚めるにせよ。
「ホンマ、詰んだなぁ。取り敢えず、一晩はここで様子見やろうけど」
 身体から力が抜けたかのように、彼女はぺたんと腰を下ろした。
「この箱庭のような世界で 生きていくと決めた 死ぬと決めたの」
 未だ白い息が、天に上る。
「今を守るために その今さえも捨ててしまえる」
 何だか、急に猛烈な眠気がした。睡眠薬を飲みすぎてしまったかのように、平衡感覚が失われていく。
「敷かれたレールを歩くのはもう終わり」
 か細い吐息が、漏れた。
 そして――

「……ああ、おった」
 それはまるで、彼がそこにいる事を知っていて、そして、できればいて欲しくなかったのだと乞うような、絶望を含んだ響き。
 尤も、その声を発した少女は、それが彼に聞こえているとは思ってもいないだろう。吹雪で風が哭き狂い、周りの音はあまりに届かず。また、彼女の声も、囁きのようであったから。
 ズボズボと、雪に埋もれながら近付いてくる足音が、背後で止まる。
「あのー、すみません。ちょっと聞きたい事があるんですけれど」
 今度は彼に届かせる意図をもって発せられた声に、彼は振り向いた。
「君も、僕の事を聞いてきたの?」
 答えなど聞かない、どうせ初対面の相手の言う事など決まっているのだから。ただボールを構え、臨戦態勢を取る。
「せめてレッドさんくらいはって思っててんけどな……。やっぱ、アカンのか」
 形成されていくバトルフィールドの中、少女の悲しげな呟きの意味は、彼には理解できなかった。

 ポケモンセンターでは、朝食や夕食も無料でついてくる。朝食に出てきたサンドイッチを食べていたミレイは、ふと手を止め、それをマジマジと見た。
 これらの食事が(主に金銭面で)どこから供給されているのか、というのも以前からの疑問ではあったが、よく考えてみたら。
 これらの食材は、一体何なんだろうか? (物理的な意味で)どこから供給されてきているのだろう?
 味は、元いた世界のものと、あまり変わりはない。だからこそ、余計に気になるのである。
 野菜や穀物は、ポケモンではない普通の植物が辺りに生えていることだし、こっちの世界にもあるのかもしれない。ならば、肉や魚などの、蛋白源は?
 そこで少しばかり空恐ろしい想像をしてしまったミレイが、元の世界との行き来が可能になった時に、まず元の世界で自炊用食材を買い溜めたのは、仕方のなかった事かもしれない。

 続・合鍵ネタの裏話的な。

「……」
 ミレイが、自販機の前に立つ背の高いひょろっとした青年を見掛けて、何だかとても複雑な顔をした。
 敢えて一番近い表情を挙げるならば、驚天動地の驚愕、だろうか。
「どうした?」
「……むぅちゃんにそっくりな人がおる。そこの自販機の前」
「おいおい」
 グリーンは呆れた。
「そいつ、明らかにお前より年上だろ?」
「むぅちゃんはリィちゃんよりも年上やで? 二十歳やもん」
「……は?」
 二人のそんな会話が聞こえたのか、青年もまた、二人の方を見て。
「……ねーちゃん? 何か縮んでるけど、ねーちゃんだよな?」
「何か縮んでて悪かったな。そういうアンタはむぅで合ってんのん? っつか、わたしが縮んでる思う時点で、むぅちゃんっぽいけど」
「ねーちゃんならきっと、イッシュに来ても育成に夢中で草むらに寄り道ばっかでジム戦なかなか行かんと、そこのカントー最強ジムリにいい加減にせーやと突っ込まれてると思うんだけど、どーよ?」
 あんまりにもその通りすぎる展開にグリーンが愕然と青年を見る横で、ミレイはぷくぅと頬を膨らませた。
「……流石に努力値は振ってへんで? レベル上げだけやで?」
「情報がまだないからな。知ってたら、振るやろ。それより、いい加減シナリオ進めたれよな」
「……うん、むぅや……その台詞、懐かしすぎ」

 弟だけが先にイッシュに出現したのがパターン1だとすれば、こっちはミレイ達もイッシュに来た場合。

「……ん?」
 グリーンの部屋に泊まりで遊びに来ていたミレイは、寝る直前の癖で携帯を見ていて、首を傾げた。
「どうした?」
「むぅちゃんから、【電話】が来てたっぽい。珍しいな。むぅちゃんは、よっぽどん事がない限り、【メール】しかして来ん奴やのに。何やろ。ちょっと、メールでも打ってみっかなー」
 ミレイはカタカタと、右手の親指一本でメールを打つ。数字キーしか並んでいないのによくやるなと、グリーンはいつも感心半分、呆れ半分で見ているわけだが。
「ん、よし」
 ミレイはパタンと携帯を閉じた。そして、いつもなら鞄に直すそれを、テーブルの上に置こうとして……
「おい、光ってるぞ。何かいつもの色じゃねーな」
「……マジに何事?」
 ミレイは携帯を開くと、ボタンを一つ押し、顔の横に当てた。
「もしもし、むぅちゃん?」
『ねーちゃん? ねーちゃんやんな?』
「逆俺々詐欺でもさせたいんかアンタは。つか、あねぃ以外の誰がこの携帯触るとでも?」
『いや、念の為。それよりちょい聞いてくれ、大変な事が起こった』
「何?」
『俺、今、イッシュ地方におるっぽい』
 ミレイは思わず耳を疑った。
「……はぁ? 嘘こけぃ。で、何やて?」
『だーかーら、俺、イッシュ地方に来ちまったっぽいって』
「……」
 ミレイは黙り込み、グリーンの顔を見た。彼女の顔から表情が抜け落ちていくのを見たグリーンも、何かがあった事は察する。
「ミレイ?」
『ねーちゃん? おーい、もーしもーし? 聞いちょびーん?』
 二人から訝しげな声を掛けられ、ミレイはやっと硬直から解けた。
「き、聞いちょびん……。え、つまり、どゆこと? マジにこっち来ちゃったって、そゆこと? つか、ホンマですか、それ? むぅもこっちおんの?」
『ねーちゃんしつこい』
「ほぉう。姉の時には散々疑ったてめーが、姉には疑うなと」
『だからこそ有り得へん事やないって、分かってんやろ?』
「まぁ、確かにそりゃそうやけどさ。流石にピンポイントで弟まで来るたぁ思えへんやん。で、イッシュにおんのはええとして、イッシュのどこにおんのん」
『分からん』
「……おい」
『あ、何か足音が聞こえてきた。また後でメールすっから!』
「は? ちょ……っ!」
 ミレイは忌々しげに携帯を睨むと、それをやや乱暴にバタンと閉じた。
「あんにゃろーっ!! 次にあったらシバキや! 何が何でもシバキ倒したる! むしろド突き倒す!」
 思いっきり理不尽な怒りを露わにするミレイ。
「何か、あったんだな?」
「……リィちゃん」
 怒りをひとまず抑えたミレイは、途方に暮れているようだった。
「むぅが、弟が、イッシュ地方におるらしい」

 その音が聞こえたのは、自分だったから、なのだろうか。
 時空が歪む、音がした。
 この世界を今支えている筈のアルセウスに、何かあったのだろうか。
 こっそり過ごしていたかった、他の仲間のようにイタズラに回るほど積極的にはなれなかった、でも。
 他の誰にもこの音が聞こえなかったのならば、他の誰も手を打てず、この世界は滅び、仲間達は二度とイタズラもできなくなるのだ。
 世界が消えてなくなってしまう、その前に。
 自分が、神を騙ってやる。
 さあ、イタズラをしよう。
 世界を巻き込む、自分のおそらく最大のイタズラを。

 アルセウスに【変身】して、隣の世界を眺めていた。
 そこで見付けた、世界からはみ出しそうな少女。
 一度はみ出しかけてしまえば、壊れてなくとも、もう世界の中に完全に戻る事は、難しい。
 自分のいる世界では珍しい、けれどその世界では珍しくもなんともない、はみ出し者の光景。
 見ていたら、彼女は何の偶然か、【こちら】を【見た】気がした。
 それは、ふと起こした悪戯心。
 どうせはみ出しかけているならば、そんな世界、飛び出してしまえば良い。
 ちょうど、彼女は【こちら】を向いている。
 すくい上げる、すっかり汚れてしまい錆まで浮いて、傷だらけで摩耗して壊れかけている、そんな小さな小さな取るに足りない歯車を。
 持ってくる時に衝撃で少し【歪んで】しまったけれど、何とか壊す事なく歯車をこの世界に【堕とした】ら、何だか少し満足した。
 さあ、この歯車は、生き返るのか、完全に壊れてしまうのか。
 新しい玩具を見付けて、ああ、自分も仲間達と同じ、イタズラ好きな種族なんだと、納得した。

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