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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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※既に両想い設定です。

 もうすっかりお馴染みの場所となったグレン島にて、ミレイが上機嫌で鼻歌など歌いながら、笹の枝を地面に立てようと奮闘していた。
「……何やってんだ、お前?」
「あ、リィちゃん。見ての通り、七夕の準備~。ほらっ、折り紙も仕入れてきてんよ」
 グリーンは思わず思いっ切り怪訝な目でミレイを見た。
「ん? こっちじゃ、こういう祝い方はせんのかな? 笹飾りつけて、短冊に願い事書いて、吊るすん」
 視線に気付いたのか、ミレイはそう説明した。そして、ちょっと首を傾げ。
「ま、うちの地元ん話やけど……。やっぱり、こっちやと、ジラーチがおるから笹の出番なし?」
 千年毎に七日間だけ目を覚まし、頭の三つの短冊に書かれた願い事を叶えてくれるポケモンの事である。ジラーチを狙った事件が起こった事もある程の、いわゆる伝説なポケモンだ。
「短冊は、ジラーチの頭の短冊ではなく?」
「いんや。普通の、紙の短冊。やっぱ、そうなるんよね~。ま、そうやないかってちょい思ってたけど」
 やっと笹を立て終わったミレイは、座り込み、折り紙に切込みを入れていく。
 グリーンが興味深く見守っていると、参加したいと勘違いしたのだろうか、彼女はハサミと折り紙をグリーンにも渡した。
「ちょ、ちょっと待て。これで何するんだよ?」
「提灯と天の川もどっきーと吹流し作るの~。飽きたら、せやなー。あの輪っか無意味に繋げた飾りとか」
「はぁ?」
 ミレイは、「あ」と呟いた。
「……そっか。笹使わんって事は、当然飾り方も知らんねんな。えっとねー、天の川もどっきーは切るだけ。提灯と吹流しは糊と糸も要るねー。でも提灯のがすぐ作り方わかっかなー。ま、どっちも幼……五歳のお子様とかでも作れるもんやから、すぐ分かるよ」
 確かにその言葉通り、ミレイが持ってきた折り紙を使い果たすのに、そう時間は掛からなかった。
「天の川もどきって、絶対そんな名前じゃねえだろ」
「多分ね。でも、正式名称はわたしも忘れた~。ま、ええねん。天の川にも関係するから、それで。そっちの話は知ってる?」
 あまり答えを期待していなかったのだろう。ミレイはすぐに説明を始める。
「織姫様と彦星様は、お互いの事が好きやねんけど、普段は逢われへんねん。あの星が織姫様。あっちが彦星様。間に、天の川があるやろ? でも、年に一度、七夕の日だけ、天の川を渡って逢えるっていうお話があんねんよ」
「……何で年に一度なんだろうな」
「それは……。それも、忘れたなー。織姫様と彦星様のお話は後からできたもんらしいから、理屈を求めちゃ駄目なんちゃう? 元々は、お祝いの方が先なんやろ。あと、お願い事も。あ、これ短冊ね」
 何も書かれていない短冊をグリーンに渡すと、ミレイの方は、既に何かの書かれた短冊を、笹にぶら下げ始めた。
「『リィちゃんと二人で蛍狩りに行けますように』? おい、バルビートやイルミーゼの何がそんなに良いんだ?」
「ちょ、勝手に読みなや! 蛍狩りは蛍狩りや! んな、でっかい虫ポケモンをしごき倒したい訳ちゃうし!! ああぁ、後でこっそり吊るせば良かった……」
「ふーん」
 ミレイが頭を抱えている隙に、グリーンもさっさと短冊に何事かを書くと、それを高い位置に吊るした。
「リィちゃんは何書いたんよ?」
「見たかったら見たら良いだろ」
「あんな上にされたら、暗くて見えへんし……」
 勿論、グリーンとしてはそれを狙って高い位置に吊るしているのだから、そうでなくては困る。
 と、ふと、二人を包む空気が変わった気がした。
 潮っ気の強かった粘りのある空気から、もっと澄んでいてヒンヤリとした涼し気な空気に。
 サワサワと、音が聞こえる。こんな、草一本生えていない筈の……生えていない筈の?
 周りはいつの間にか、森の中になっていた。サワサワと鳴っていたのは、梢や草の擦れる音だ。
 いや、他にもサラサラと鳴っている音源がある。
「……えーと、夢?」
「お前、案外冷静だな」
「あー……。うん。何て言うか……慣れって怖いね」
「どんな慣れだよ……」
 因みに、ミレイが冷静なのはトリップに慣れているからだが、グリーンが取り乱していないのはひとえに意地の問題である。内心のパニック度は、明らかに彼の方が大きい。
「あ!」
 普通に周りを見る余裕のあるミレイは、目の前を横切った光に歓声を上げた。
「な、何だよ!?」
「ほら! 蛍! あっちに行った……追っかけへんと!」
「おい、待て! 危ないぞ!!」
 ミレイはグリーンの制止の声など聞こえていないかのように、サラサラと音のする方へ向かって駆けていく。
 後を追って走るうちに、二人の周りにはフワフワと、光があっちにもこっちにも増えていく。
「見て見てリィちゃん! 蛍がムッチャいっぱい!! きっと近くに綺麗な川があんで!」
 ザッと音を立てて、彼女は急ブレーキをかけた。
「ほら、やっぱり!」
 サラサラと音を立てて、川が流れている。そして、その上を舞う、幾多もの光。
「な! 蛍、綺麗やろっ!」
 しかし、グリーンにとっては、幻想的な光景の中に佇み満面の笑顔を向けてくる彼女の方がよっぽど綺麗だった。もう、目が離せない程に。
 きっと自分は呆けたような顔をしている。けれど、それを、どうしようもない。
「天の川を渡る彦星とやらも、こんな気持ちなのかな」
「んにゅ?」
 金と銀、色の違いこそあるが、光の瞬く川で出逢う。誰よりも愛しい相手に。
 グリーンは無意識のうちに、とても柔らかな笑顔を浮かべていた。
「すっげー、綺麗だ」
「ね!」
「蛍も綺麗だけど、お前が……本当に綺麗なんだよ」
 ただ、綺麗すぎて、幻想的すぎて、油断していたら消えそうで、怖い。
 ミレイがはっと息を呑む、その息を使って何か言われる前に、グリーンは彼女を抱きしめた。言葉を封じるように、彼女の存在を確かめるように、唇を重ねる。そしてミレイもまた、おずおずとではあったが、グリーンの背中に腕を回した。
 抱き合う恋人たちを、蛍が幻想的に照らし出している。
 七夕の日には、短冊に願い事を書いて祝えば、それが叶う事があるらしい。

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「暑いのー。うだりそうなのー。っていうか、夏バテ起こしそう……」
「まだ7月だっての」
「うー。8月が乗り切れるたぁ思えへん……」
「今からそんな弱気でどーする。そんなに暑いなら、フタゴ島まで泳げばどうだ? あそこは夏でも涼しいだろ」
「んな体力ねーですうぅ」
「んじゃ、もっと手軽にそこの岩場で海水浴とか」
「……水着がないよぅ」
「……」
「リィちゃん、今、何考えた?」
「!! な、何でもねー!」

 夕陽が、赤茶けたグレン島を更に紅く染め上げていた。
 朱色の地面に、岩がくっきりと黒い影を落としている。
 そして、くっきりと写っている影は、何も岩だけではなく。
 寄り添う二人の人間の影もまた、山の方に向かって伸びていた。
 二つの影は、何か楽しい話でもしているのか、盛んにさざめき、揺れている。
 しかし、夕陽が更に地平に沈み、影が長くなってくると、それにつれて動きも少なくなってきた。
 ただ並ぶ、二つの黒々とした影。
 不意に、背の高い方の影が、隣の影の腰を引き寄せた。
 隣の影は頭に当たる部分を揺らせたが、振り払ったりする様子は見せず、引き寄せられていく。
 背の低い影は、やがて甘えるように、背の高い影に頭を預けた。
 夕陽は最早水平線の彼方、夕暮れ時は影を暗闇に紛れさせていく。
 だが、二つの影が重なり合い、融け合っていくように見えるのは、果たして夕闇だけのせいだろうか。


 
 何気なく、いつものように、言うつもりだった。
 自分は昔、イジメに遭っていたのだと。
 なのに、どうしてだろう。
 みっともなく胸が詰まる感じがして、息苦しくて、結局、言えずじまいで。
 本当のわたしを知れば、彼がわたしに向ける視線は変わるかもしれない。
 それが、何よりも、怖くて恐ろしくて。
 一度は、自分から、好きになってくれるなと突き放す態度をとった。
 それなのに、今はもう、彼に嫌われたら、息ができなくて死んじゃうんじゃないかとさえ思える。
 ああ、わたしはやっぱり、ワガママで嫌な子。
 ワガママという単語に、また、息苦しさが、増した。



 ミレイのどこかぎこちない笑顔の中、一瞬瞳からスッと光が失せる。
 蛍光灯が切れかけている時のような、不規則で不気味な明滅を繰り返す。
 この光が完全に消えた時。
 彼女は、『発作』を起こすだろう。

 彼女の最後にして最大の『発作』を。

 夕方、グレン島にて。
 少年と少女が並んで夕陽を眺めている、ここ数ヶ月ですっかりお馴染みになった光景があった。
 ただ、この二人。距離の近さを考えれば相当仲は良さそうなのに、それ以上の何かがない。友人以上、カップル未満といった雰囲気か。
 ――否。よく観察すれば、少年が少女の方をチラチラと気にしていたり、少女の手が少年の方に持ち上げかけられ、また下ろされたりと、要するに、純情な青春のヒトコマが展開されているようだ。今時、こんなに分かりやすくて微笑ましい漫画のようなシチュエーションには、そうそうお目にかかれないと思われるのに。
「あーもう、何故そこで手を握ってしまわない……!」
 おや? どうやら今日は、二人の他にも誰かいるようだ。
 周りを見れば、少し離れた岩陰に隠れて二人を観察する、人影が二つ。
 伝説とさえ謳われる少年に、彼をも凌ぐ実力を秘める、今は少年を装うトレーナー。
「あいつら馬鹿だろっ!」
 ウタタが憤慨するように(一応小声で)叫ぶと、レッドもうんうんと頷いた。
「確かに」
 彼等が温かく(?)見守る相手は、それぞれにとって長い付き合いのある相手。それ故に、この進展の遅さは本当にもどかしくて見ていられない、といった所だろう。
「……リィちゃん?」
 見守られていた側の少女、ミレイが、訝しげに、段々顔を赤くしていく傍らの少年、トキワのジムリーダーであるグリーンを見た。
(馬鹿で悪かったな……!)
 グリーンの方は、どうやらウタタとレッドの会話が聞こえてしまっていたようで、彼女と反対側の手がグッと握られ、心無しか、プルプルと震えているようにも見える。だが、ミレイの方は、それにも気付いていないらしい。
「……レッドとウタタが来てる」
 グリーンが低く抑えた声で言うと、ミレイは驚いたように辺りを見た。
「へっ!? ターちゃんと……レッドさんが? また珍しい組み合わせやねっつうか、レッドさんがシロガネ山から出るなんて……!」
 この発言を聞けば分かる通り、彼女はどちらかと言えばウタタとそれなりに長い付き合いがある。一方のグリーンは、レッドの幼馴染だった。
「あいつら、どうにかならないものかな」
 ボヤくグリーンに、ミレイはあっさりと無邪気に悪気なく容赦ない現実を突き付けた。
「無理ちゃう? レッドさんリィちゃんよか強いやろ? んで、ターちゃんわたしより強いもん」
「……」
 グリーンが思わず嘆息したくなったところで、誰も彼を責められまい。
 一方で、ウタタとレッドは普通にミレイの声を聞き取る事ができるので(何せ彼女の声はそれなりに通る上に、声を抑えずに話すからだ)、概ね今の会話の内容を察知した。
「そうかそうか。追い払いたいのか……」
「なんと! ミレイちゃんと二人っきりになって何をするつもり!?」
 普段は静かな筈のグレン島が、グリーンにとって全く平和でなくなった夕暮れ時。
(本当に、もういい加減にしてくれ!)
 だが彼の心の叫びは、結局誰にも届かないのであった。


 続きに、ココちゃん提供の元ネタのイラストをしまっておきます。

ウタタ「あれ? ミレイちゃん、今日はリュウガ君に乗って来なかったんだね。そのピジョット、誰?」
ミレイ「ん? あ、この子はね、ハシバミ言うんよー。可愛いでしょ」
ウタタ「ハシバミ君かー。どんな性格?」
ミレイ「……(何だか顔がにやけている)」
ウタタ「ん? 何か変な事聞いたかな?」
ミレイ「んんんー。そうちゃうねんけどね。あんねー、この子はねー、寂しがり屋さんなのー」
ウタタ「何だかすっごく嬉しそうだね?」
ミレイ「やっと、ピジョットにまで育てられたのー。ハシバミー。あのねー、ハシバミはねー、こう見えてもピジョットん中で結構強いんよ? ……少なくとも能力値が」
ウタタ「ハシバミって名前は、どこから付けたの?」
ミレイ「うふふふふ~。これはね、内緒なの~」
ウタタ「……はっ! もしや……」
ミレイ「うにゃ?」
ウタタ「ミレイちゃん、もっと本人の前でもそれくらい積極的にアプローチすれば良いのに」
ミレイ「はにゃ? ありゃりゃりゃりゃ? え、もうバレた!?」
ウタタ「ハシバミって、茶色い色だけど? で、だ~れかさんは茶色い髪に茶色い目で、お姉さんに、寂しがり屋だって評されてたよね。それで、ピジョット連れてた筈だし(笑)」
ミレイ「ターちゃん、鋭すぎて怖いよぅ。そうなの、リィちゃんの瞳の色なの……。で、リィちゃんピジョット大事にしてるから、育ててみようかなって」

「……あ~……た……れ~……か~た……♪」
 グレン島のポケモンセンターの前に降り立つと、どこかから風に乗って聞こえてくる、微かな歌声。
「……て~……らぎ~……える~♪ ……わな……せ~か~い、……ただけ~が……い~♪」
 まるでポケギアで聞くラジオのチューニングのように、グレン島を西へ東へ探索すると、山に近付くにつれて途切れ途切れではあっても単語の断片が聞き取れるようになってきた。
 歌声の主の姿はまだ見えない。けれど、見えないのに歌声が届くという事は、声の主は相当伸びやかに歌い上げているのだろう。もしくは、よく通る声の持ち主なのだろう。
「……なに……く~し~い、……うのに~……か~が~足り……♪」
 グリーンには、その声の主が分かっていた。分かっていたからこそ、彼女を探す。
「……った宝~も~の……は遙~か……た~♪」
 それにしても、ミレイが今歌っているこの歌は、一体何の歌なのだろう。
「……の時……う事……が~ってたら~、……み~……こに……ただろうか♪」
 見上げれば、以前はなかった筈の、明らかに人工的に積み上げられた岩の塊がある。そして歌声は、その向こうから響いてきているように思えた。
「……かめる術~……ないけれど~、……れでもなお~君を想う♪」
 岩の壁を、回る。果たして、そこには。
「か~ぜが~、天~駆~け~る~♪ 呼び~合ってる~、た~ましいの、声~♪」
 確かにミレイがいた。いて、目を閉じて、非常に気持ち良さそうに、歌っていた。
 問題は、そこが、温泉だった事だ。すなわち、彼女は……。
「!!!」
 湯煙で、はっきりと見えたわけではない。
 しかしその光景は、健全な青少年には、いささか刺激が強かった。
 真っ赤になって固まる哀れな男の子一名。しかし、幸か不幸か、少女の方は、歌うのに夢中で、全く気付いていない。
 数秒ではっと我に返ったものの、とても声を掛ける事などできず、グリーンは大慌てでその場から逃げ出した。

「歌だけ届く~、想い~を乗せ……ん?」
 上機嫌で歌っていたミレイが、口を噤んだ。
 足音が聞こえた、気がする。
 タオルを身体に巻き付け、そっと岩陰から顔を出すと……山を駆け下りて行く、見覚えのある人影が見えた。
「……あ、リィちゃん。なしたんやろ、あんな慌てて……って」
 風の冷たさに今更ながら自分の格好を思い出し、ミレイは苦笑した。
「むぅちゃんと反応そっくりやなー。純情やなー。可愛いなー。ああ、でも……」
 ふと、その笑顔に陰が差した。
「もしかしなくても、騒音公害聞かれたやも~。うにゅううぅぅ」
 見られた事よりも、聞かれた事の方に落ち込む変な人一名。
 ポケモンの暮らす世界に来て、ミレイの身体の調子は(常人に比べたらまだまだかもしれないが)随分良くなっている。しかし、元々彼女はアトピー持ちで、全身に薬を塗らなければならなかった時期があり、そしてその最中にうっかり弟が来てしまったりするのは日常茶飯事だったわけで。一般的な女の子ほどは、そういう事は気にしない傾向にあったというか、耐性があった。むしろ弟の方が困っていたと言えよう。
「うん、ま、……気にすんなって……言いに行こっかな」
 偶然覗いてしまっただけなら、気にしない。それは不可抗力だ。仕方のない事だ。
 最初から、一緒にお風呂に入ろうなどと言われれば別で、緊張もすれば、意識もしてしまって大変な事になるが。
「よしっ。上がろ。……最後まで歌いきったら」
 彼女はいそいそと、温泉の中に戻っていったのだった。

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