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ポケモンH.G.トリップもののメモ帳。
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「……研修旅行?」
「おう。どこが良いと思う? お前なら、ジョウトの事だって知ってるだろーから、意見聞かせてくれ」
「え、しかもジョウト行くん?」
「いや、カントーでも良いぜ? ただ、選択肢は多い方が良いだろ」
 最近、何だかジムの運営に係わるような会話が増えたなぁ、と思ってはいたが。まさか、こんな事まで相談されるとは思っていなかった。
 ミレイは首を傾げる。ジムリーダーが、得体のしれない人物にそういう事を相談するのは、どうかと思う。
 グリーンの方には、ミレイをジム運営に引っ張り込めば人目を憚らず会う事ができるわけだし、将来的にパートナー(勿論、漢字四文字に言い換え可能)として共にいてくれるようになるのではないかという、彼なりの思惑があるのだが。
「私の意見はあくまで、個人的意見やで?」
「ああ、そうだぜ?」
「……何が今回の旅行の目的なん。一口に研修旅行言うたかて、研修は単なる名目で観光やってる場合もあるやろし、真面目に研修するとしても何がやりたいんよ? それによって、行き先変わるやろ」
「そうだな、理想を言えば、観光しているようで実は勉強にもなってたってパターンなんだがな」
 ミレイが真面目モードに入ったので、グリーンもジムリーダーとしての意見を述べた。
「人数はそれなりにおるんやね?」
「普段勤務してくれてるトレーナーと、あとはトキワやマサラのトレーナーで希望者が出たら、そいつらも連れて行く事になるな。ジムの旅行だし」
「体力つけさしたいなら、ポケスロン。戦略眼とか磨くなら、バトルフロンティア」
 ミレイは即答した。
「ある程度人数がおって、それでも楽しんで勉強もさしたいんやったら、ジョウトでのオススメはその二ヶ所やね」

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「……誰だ、お前? ポケモントレーナーって事は、見ればすぐに分かるけどな……」
 少女はミロカロスを連れている。珍しいポケモンだ。そして、そのミロカロスは、一応はバトル用に育てられているように見えた。単なる観賞用、愛玩用のポケモンとは、纏う空気が違ったから。
 途中で何かを言いかけた少女は、それを飲み込んだ表情のまま、固まっている。
 何か変な事を言ったか? と怪訝に思った頃、彼女がそろそろと息を吐くのが分かった。どうやら、彼女は自身の呼吸ごと、言葉を凍結させていたらしい。
「見ての通りの旅人です。ミレイと申します」
 彼女はやや丁寧な言葉遣いで答えた。まだ年若いというのに、どこか大人びた態度。オレが彼女くらいだった頃は、恥ずかしい話だが一番驕り高ぶっていた時期だったのもあって、年長者相手でもそんな遜ったような態度は取らなかった。どんなに酷かったのかは聞かないでくれ。あれは、オレの黒歴史だ。
 ああ、それとも彼女は、オレがオーキド博士の孫だと知っていて……元チャンピオンで、今もカントー最強のジムリーダーとして君臨している事を知っていて、ゴマをすっているのだろうか。
 だが、それにしては少女の瞳には一時期飽きるほど見慣れていた媚びるような色はなく、ただ淡々と、その場の風景を映し出していた。その中心にはオレがいる。いるのに、視線が合っているわけではない。微妙に、下に逸らされて。
 目を伏せがちにして、控えめな発言をするというのは、彼女は自分に自信がないのだろうか。大人びた、というのはオレの思い違いで、実はただの臆病者だったとか。
 それにしては連れているミロカロスは何だろうという話になるし、もっと怖気ついたような態度をとる様子もないし……。
 ……よく分からない相手だ。
「ふーん。ミレイ、ね」
 彼女の名前を舌の上で転がした時、一瞬だけ彼女は視線を上げ、焦点をオレの目に合わせた。が、すぐにまた、軽く目を伏せる。
「オレの名前はグリーン! カントーを制覇してチャンピオンになった男さ!」
 相手に名乗らせておきながら自分が名乗らないのは、いくらなんでも失礼だ。たとえ彼女が本当は、オレの事を知っているのだとしても。
「……と言っても、レッドのヤローに邪魔されて、チャンピオンでいられたのは少しの間だったがな……」
 ミレイ、と名乗った少女はただ黙って、オレの自己紹介を聞いていた。オーキド博士の孫なのに負けたのかとか、逆に下手な慰めを口にする事もなく、淡々と、先程と同じように、オレを見ていた。普通に、そういうものなのだと、受け入れたかのように。
「ところでお前、何か用か? オレと戦いたいのか?」
 向こうが特に何も言わないので、こっちが一方的に喋る事になる。まるで、懐かしい誰かを相手にしているみたいだ、と思っていたら、これまたほんの一瞬、ぴくりと反応した。戦いたいのか、と聞いた時だ。
 やはり、ポケモントレーナーだけあって、オレがどこの誰かにはそこまで関心がなくても、バトルには興味があるという事だろうか。
 正直、そんな気分じゃなかったので、彼女に口を挟む隙を与えずに、言葉を続けた。実際は彼女はバトルにすら興味がなかったのだと後から聞く事になったんだが、当然その時は知る筈もなく。
「わりぃが、今、戦う気分じゃねーんだ。この有様を見てみろよ……」
 オレが辺りの荒れた大地を見渡すのを追って、ミレイも周りに視線を巡らせた。再びオレの方を見た時、彼女の目には陰りが見えた。オレが今から言うであろう事を、察したのだろう。
「火山がちょっと噴火しただけで、街ひとつなくなっちまった。ポケモン勝負で勝った負けたと言っても、自然が身震いしただけでオレ達は簡単に押し流されてしまうんだ……」
 伏せられ気味だった目が、完全に、伏せられた。何も言えないと、その表情が語っていた。
 ただ風だけが、哭いていた。そう思った時、意外にも彼女は、口を開いた。
「人間はあまりにもちっぽけで……」
 独り言のように囁かれたその言葉が、本当にオレに聞かせるつもりのなかった心の声だったと知ったのは、かなり後になってからだ。
「ただでさえちっぽけなのに、更に小さい事しか考えられなくて……ああ、でも」
 でも、何だというんだ?
 ひときわ強く、風が吹く。彼女はそれに耳を澄まし、その行く先に視線を転じた。遠くを見る瞳には、最早オレは映っていなかった。
 そう、ただ、遠くだけを、見据えて。彼女は、こう言った。
「簡単には押し流されてくれないくらい往生際が悪い馬鹿だって、思いをどこまでも広げようとする気違いだって、人間か」
 自己紹介の時とは異なる、乱暴な言葉遣い。なのに声音だけは、どこまでも優しかった。彼女は人間がこの自然の中ではとても小さな存在だと知っていて、それでもその可能性は大きいのだと、信じているかのようだった。
 オレがハッとして彼女を見た事なんて、気付いちゃいないだろう。今度はオレが何も言えなくなったなんて、夢にも思っちゃいないだろう。
 よく分からない相手だ。だが、これだけは分かる。彼女は、一筋縄ではいかない。
 少し、興味が湧いた。彼女がカントーのバッジを幾つ持っているのかは知らないが、そんな事は……
「……まあ、いいや」
 ミレイはオレの声に反応して、不思議そうにこっちを見た。
「オレはトレーナーだからな。強いヤツがいたら、戦いたくなっちまうんだ」
 このオレが興味を持つんだ。それなり以上には、強い筈だろう?
「お前……本気でオレと勝負するつもりなら、トキワのジムまで来いよ。先に行って待ってるぜ」
 ピジョットを呼んで、飛び乗る。正直、今の手持ちは秘伝技を使ってくれるヤツらもいるから、バトルには向かないんだ。普通の相手なら十分相手にできるだろうが、オレは、彼女はジムに挑戦できるだけの力を持っているかもしれないと思った。
 その時のその印象を、もっと大事にしておけば良かった。

「誰だ、お前?」
 振り向いた彼がそう訊ねてくるのは分かっていたから、答えようと、口を開いた。けれど。
「ポケモントレーナーって事は、見ればすぐに分かるけどな……」
 予想外に続けられた言葉に、返すタイミングを失った。中途半端に息を吐き出しかけて止めた状態で、更に何かが続くのか、うかがう。
 彼が眉をひそめた。どうやら、答えを待っているようだ。
 中途半端に止めてしまった息で声を出すほど器用ではないから、一旦そろそろと息を逃がした。
「……見ての通りの旅人です。ミレイと申します」
「ふーん。ミレイ、ね。オレの名前はグリーン! カントーを制覇してチャンピオンになった男さ!」
 グリーンは高らかに宣言した、と思ったら、肩を落とす。
「……と言っても、レッドのヤローに邪魔されて、チャンピオンでいられたのは少しの間だったがな……」
 確かに、一瞬なんだったっけ? と思いながらも黙って聞いていたら、彼は勝手に落ち込んだとき同様勝手に立ち直って、気を取り直したように言った。
「ところでお前、何か用か? オレと戦いたいのか?」
 彼はポンポンと言葉を紡ぐ。口を挟む隙など、ありはしない。別に戦いたいわけではないのだと否定したいのに、そのタイミングすら与えられなかった。
「わりぃが、今、戦う気分じゃねーんだ。この有様を見てみろよ……」
 促されなくても、周りにはただ、荒れ地が広がるばかり。そしてただ寂しく、風が歌うばかり。
「火山がちょっと噴火しただけで、街ひとつなくなっちまった。ポケモン勝負で勝った負けたと言っても、自然が身震いしただけでオレ達は簡単に押し流されてしまうんだ……」
「……」
 何を言ってもこの場にはそぐわない気がして、ただ、彼の顔から視線をさらに落とした。
 風が歌う。風だけが、歌っている。歌声の絶えた街で。
 ああ、やっぱり。
「人間はあまりにもちっぽけで……」
 その思いが、声になっていたのだとは、後から聞いた。
「ただでさえちっぽけなのに、更に小さい事しか考えられなくて……ああ、でも」
 風が誘ったから、誘われたままに、その行く先を見送った。彼がこっちを見ていた事なんて、全く意識になかった。
「簡単には押し流されてくれないくらい往生際が悪い馬鹿だって、思いをどこまでも広げようとする気違いだって、人間か」
 今度は彼までも、沈黙した。
「……まあ、いいや」
 彼の声に我に返って、その顔に目を戻す。
「オレはトレーナーだからな。強いヤツがいたら、戦いたくなっちまうんだ」
 何だか、嫌な予感がした。そういえば、何やら勘違いをされていて、しかもそれをまだ、解いていなかったような気がする。
「お前……本気でオレと勝負するつもりなら、トキワのジムまで来いよ。先に行って待ってるぜ」
「……え? ええ? ちょっと!?」
「ピジョット! 戻るぞ!」
 彼のポケモンの巻き起こす風に、思わず顔を庇う。上空に舞う影。
 溜息を吐いたところで、多分、罰は当たらないと思う。待っているなどと言われては、行かざるをえないではないか。こっちはそもそも勝負するつもりなどなく、当然行くとは言っていないのだからトンズラしても構わないのだろうが、下手にどこかで出くわしてしまった時が怖い。向こうは、こっちが来る事が前提なのだから。
「……しゃーないなぁ。行ったりますか。できれば話し合いでバトル回避したいけど……無理やろーなー……」
 来ると信じて待っている彼を、長々と待たせるわけにもいくまい。

 そこに足を踏み入れた瞬間、異世界に立った気がした。
 風だけが寂しいメロディを奏でる、静寂の世界。
 たっぷり数呼吸分置いて、いやいやマジに異世界やから、と、本当にどうでも良いツッコミを思い浮かべる。
 ふと、何か、何かが動いた。
 目を凝らすと、人影。どうやら、一人。
 今までのパターンと、知識を統合すると、そこにいるのはきっと……。
 念の為に確認するつもりで、そちらに向かって足を進めた。

 黒い上着を着た明るい茶色の髪の青年が、物憂げに、未だ草一つ生えぬ山を見上げている、ように見えた。
 最早、この世界の住民の、どういうセットをしているか分からない髪型には突っ込まない。勿論今回も、スルーする。
 彼の目には、何が映っているのだろう。
 なるべく邪魔せぬよう、足音を殺して、近付いた。

 何者かの気配を感じた。
 強いて言えば、レッドのそれに近い。普通の人なら、見逃してしまいそうなところが。
 だが生憎とグリーンは、そんな人間らしい気配の希薄な相手が幼馴染だった為、今回の何者かの気配にも気付く事ができた。
 静かに振り向くと、白い帽子に赤い上着の少女が一人、後ろにミロカロスを連れて、彼を見ていた。

 青年が振り向く。こっちに気付いたらしい。
 創作によっては緑の瞳をしている彼だが、どうやらこの世界の彼の目は、薄い茶色、榛色のようだった。
「……誰だ、お前? ポケモントレーナーって事は、見ればすぐに分かるけどな……」
 それが彼との、出逢い。

(……やっぱ、疲れてんやないのかなぁ)
 その日、昼過ぎとはいえ夕方に近い時間にグレン島に行くと、トキワのジムリーダーが地面に座り込み、大きめの岩に寄りかかって眠っている場面に遭遇した。
 ミレイは取り敢えず、無言で携帯を取り出し、それを撮影しておいた。ポケモン世界にコンパクトなカメラはないか、今度探してみようなどと考えながら。
 そして、取り敢えず風邪を引かないようにと毛布を掛け、起こすのは忍びないからと隣でぼんやり座り続け、日が沈むまで待っても彼が起きない事に対して浮かんだ思いが、冒頭のそれだったりする。
 ジムリーダーは、面倒くさい職業だ。いつ現れるか分からないポケモントレーナーの相手をせねばならない。夜型のトレーナーの為に深夜までジムを開けていたりもする。結果、不規則な生活になりがちなのではないかと、ミレイは心配していた。密かに心配しているだけでは飽き足らず、実際にそう言ってみた事さえある。だが、どうやらポケモン世界の住民は身体能力的にはミレイの元いた世界の人間とは比べ物にならないほど強靭らしくて、笑い飛ばされてみたり、軽くあしらわれてしまったり、逆に心配されてみたりと、マトモには取り合ってくれなかった。
(まさか、既に風邪引いてるとかいうオチはあれへんよね)
 熱がない事を確かめるために、ミレイはそっとグリーンの額に手を伸ばした。
 ――大丈夫、温かい。熱くは、ない。
(それにしても、いつまで寝てるつもりなんやろ?)
 まるで、童話の眠り姫みたいだ、とぼんやり考え、それならキスで起きるのではと、悪戯心が頭をもたげる。
 隣に座っているというこの位置からでは、届くのは……。
 キスで、というよりもバクバクとうるさい自分の心臓の音で相手を起こしそうだ。そんなミレイの心配はあっさり杞憂に終わり、頬に口づけを落としても、やはりグリーンは眠ったままだった。
 安堵と軽い失望の混ざったミレイの吐息を隠すかのように、ザッと音を立てて風が吹く。
 ミレイは風に誘われたかのように、空を見上げた。真っ暗になるのも、最早時間の問題だ。
 風に乱れてしまったグリーンの髪を優しく梳いて、意外と手触りが柔らかい事に驚きつつも、流石にそろそろ彼を起こそうかと思案する事は忘れない。これ以上寝たいなら、こんな屋外ではなく、家や、せめてポケモンセンターで休むべきだ。
 ミレイは、グリーンの手を片方取り、自分の手と繋いで、指を絡み合わせた。そして繋いだ手をそっと自分の頬に押し当てる。
 それが一番優しい起こし方なのだと、教えてくれたのは、誰だっただろう。遠い記憶の中にあったようにも思えるし、つい最近聞いたようにも思える。
(これで起きへんかったら、普通に……肩、ゆす……って……)
 不意に、猛烈な眠気に襲われた。
 はたりと、繋いだままの手が、毛布の上に落ちる。
 吸い込まれるようにして、ミレイもまた、眠りに落ちていた。

 ――夢を、見ていた。
 どこかの家の、おそらくはリビングで。二人、ソファーに座って、どちらも膝に乗せたイーブイの毛づくろいをしながら、他愛もない話をして、笑っている。そんな夢。

 頭にかかった重さで、意識が浮上した。
 瞼には、既に光を感じる。どうやら、起こす筈が自分まで寝てしまい、そのまま外で朝を迎えてしまったらしい。
 体勢を考えるに、自分が相手の肩にもたれかかり、相手がそのまま頭をこちらに預けているのだろう。
 飛び起きたいところだが、そんな真似をすると明らかにこちらの頭にもたれかかっている相手に頭突きを食らわせる事になるので、ミレイは息を詰め、そっと目を開けた。
 少し傾いた視界の端に、日の出が見えて、詰めていた息をゆっくりと吐き出す。
 ミレイが起きた事に気付いたのか、頭にかかっていた重さがふっと消えた。
 ミレイも頭を起こし、そのまま隣を見上げて言った。
「おはよう、リィちゃん」
 一拍ほどおいて、グリーンからも挨拶が返ってくる。ミレイはそれに笑顔を返した。
 その後の会話で、実は二人で同じ夢を見ていたと気付く事になる。

お題配布元:転寝Lamp


 とても珍しい事に、ふと夜中に目が覚めた。
 静かすぎる夜の静寂に、不安になって、必死に耳をそばだてる。
 すぅ、すぅと微かに聞こえる寝息はか細くて、消えてしまいそうで。
 その音の細さに、完全に目が覚めてしまった。
 眠る前は確かに傍らに在った温もりが、今はない。
 慌てて起き上がると、ベッドのすぐ横の床に、丸くなって横たわる人影。
 ベッドから落ちた、にしては、彼女が包まっている毛布の説明がつかない。
 どうやら、疲れている自分に気を遣って、床で寝る事にしたらしかった。
 そういえば、今夜はリビングのソファーで寝ると主張し、喧嘩になりかけたんだっけか。
 半ば無理やり同じベッドに入る事で決着をつけたつもりだったのに、納得できなかったらしい。
 確かに仕事をしているという点では自分の方が疲れているだろうが、彼女の方が身体は弱いのに。
 そして、それを実感させられたあの時と同じ体勢で眠る彼女。
 外界から身を守るように、ただ丸く、小さく、縮こまって。
 そんな彼女を踏まないように、慎重にベッドから降りる。
 心配になってそっと触れた頬は温かくて、思わず安堵の息が漏れた。
 緩やかに規則正しく上下する身体は、彼女が深い眠りについている事を表す。
 今ならば、彼女をベッドに戻しても、起きる事はないだろう。
 抱き上げると、相変わらず、軽い。
 ただ、月を追うごとにだんだんと、骨ばった硬さの上に年頃の女の子らしい柔らかさが被さってきているのを実感できるのは、嬉しかった。
 最大の発作を起こした後の彼女は、げっそりとやつれ、頬がこけていたくらいだったから。
 ベッドの上に横たえた彼女の頬に、そっと口づけを落とす。
 彼女が眠っているならばこんなに簡単に、愛している事を行動で示せるのに。
 胸が苦しくなって、彼女の髪に手を伸ばした。
 手で梳けば、指の間からサラサラと零れ落ちる柔らかい手触り。
 暫く堪能してから、自分もベッドにもぐりこんだ。
 むにゃ、と何か寝言を呟く彼女は、未だ眠りの中。
 その顔が、心なしか、緩んだように見える。
 彼女は、どんな夢を見ているのだろう。
 同じ夢が見たくて、そっと指を絡め合ってから、意識を手放した。

お題配布元:転寝Lamp


 気配のようなもの、を感じてグリーンがふと顔を上げると、こちらをジッと覗き込んでくる相手とばっちり視線が合った。
「うわっ!? ……レッド、来たのなら声くらい掛けてくれよ」
「……」
 レッドは無言で、グリーンの覗き込んでいたパソコンを見る。
「うん、お前が気を遣ってくれたのは嬉しいんだけどな、心臓にわりぃんだよ」
 グリーンは、リーグ本部に提出する書類の作成をしている最中だった。レッドはそれを邪魔すまいと思ったのだろう……きっと。
 彼は基本的にマイペースだ。そして、他人の都合など、あまり頓着しない。彼が気を遣う相手は、とてもとても、少ないのだ。
 グリーンは、ふぅ、と息を吐くと、キリの良い所まで仕上げた書類を一旦保存した。
「で、どうしたんだ?」
 肩をコキコキ鳴らしながら言ったグリーンの目の前に差し出されたのは、真新しいポケギアだ。深い深い、紅いポケギア。まるで持ち主の名前のように。
「おっ、ついにお前もポケギア買ったのか!」
 ふるふると、レッドは首を横に振る。
「……母さんが」
「ああ、成程な。せっかくだし、電話番号交換するか?」
「……」
「レッド?」
「使い方、分からない」
 今度はグリーンが、絶句した。
 数秒間の沈黙。
「そ……っか、そりゃあ、そうだよな。ポケギアが出たの、最近だしな! よっしゃ、それじゃ、オレが教えてやるよ!」
「……うん」

「やほろでーす、お邪魔しまーす」
 ジムの入り口から、言葉の割には遠慮がちな、小さな声が聞こえた。ただ、この声、小さくても結構通る。グリーンは気付かなかったかもしれないが、レッドは確実に気付いた。
「……あ、お取込み中やね。それじゃ、お邪魔しましたー」
 声の主は、早々に退散の意思を明らかにして、帰ろうとした。
「ミレイさん、前もすぐに帰りませんでしたか。用事があるのでは?」
「あー……。用事っていうほどのものでもないんで」
 ジムの入り口にいるトレーナーとほんの二言三言の会話を交わす、それだけの時間があれば、レッドが視線をそちらに向け、グリーンもそれに気付くには、十分だった。
「おっ、ミレイ!」
 グリーンに声を掛けられ、ミレイは「やほー」などと言いながら小さく手を振った。流石にリーダーに挨拶されては、そのまま引き返すのは失礼だと思ったのだろう。彼女はパネルの仕掛けの方へ歩いていく。
「へぇ……。ミレイっていうんだ」
 レッドの声音に何かを感じ、グリーンは再び彼を見る。
「お前が初対面の奴に興味を持つなんて、珍しいな」
 レッドは口角を釣り上げた。
「それは違うよ」
 パネルの仕掛けを解く少女を見る。
 今日も、彼女の雰囲気は、一般人と大差ないように見えた。だが、何となく異質な空気を纏っている事も、レッドは感じ取っている。それは、あの時に比べたら随分薄れてはいるものだけれど……彼女の根幹にかかわるもの。
「こんちゃ、リィちゃん。レッドさんも、こんにちはです」
「君、ミレイっていうんだって? ……今度は負けないよ」
 レッドの口から出た驚愕の事実に、グリーンは思わずミレイを見た。
 ミレイはと言えば、一瞬舌打ちしかねないほどの不機嫌そうな表情を浮かべ、次いで情けなさそうに眉を八の字に下げた。
「勘弁して下さい、レッドさん。別に、この前だって、バトルしたくてしたわけじゃ……」
「その割には、きっちり、勝った時のお願い考えてきてたけど?」
「ああ、それは、まぁ……。今までの事を考えたら、高確率で問答無用のバトルに突入するんじゃないかなーって思ってましたし。皆さんバトル好きすぎですよ」
「僕を超えた先に、君は何を見たの?」
 ミレイはその問いには答えなかった。彼女はどこか遠い目をし、何故かグリーンを見て、それからまたレッドに視線を戻し……彼と目を合わせて、答えに聞こえない事を言った。
「レッドさんのいた所からは、そりゃあ、空が広がっていましたよ?」

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